ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(2) 現代人へ理想的なデトックス 熱くなれる92ps!
望外な運転体験 自動車史のスイートスポット
車重は882kgと、クーペより50kg以上重いものの、走りは意欲的。0-100km/h加速を9.1秒でこなし、当時としては立派な動力性能といえた。CR-X Siより遮音性は僅かに高く、5速MTのギア比もロングで、比べれば車内は静かだ。 ダッシュボードのデザインは、明らかに異なる。基本的な特徴は似ているが、角ばった印象は抑えられ、恐らく製造コストも小さいはず。CR-Xではビニールで覆われる部分は、プラスティックが露出している。 人間工学の良さは共通。運転席へ座った瞬間から親しみが湧き、秘めた性能を引き出したい衝動へ駆られる。荷室には、荷物が滑るのを防ぐフックやネットなどは一切なし。スーパーからの帰り道で調子に乗り、食料品を暴れさせた人もいただろう。 最高出力は3桁に届かなくても、運転体験は望外に素晴らしい。過去最も楽しいクルマの1台だと表現していい。軽さという偉大なアドバンテージを、実感できる。当時のAUTOCARが、現代のロータス・エリートだと評価したことにも納得する。 装備は限定的で、信頼性が高く、燃費に優れ価格は現実的。エンジンは滑らかに回り、1.0L当たりの馬力も上昇しつつあった。1世紀以上に及ぶ自動車史の、スイートスポットにある。 その後、コンパクトカーも肥大化していった。車重へ対応するため、更なる馬力が求められた。1990年代のシビック・タイプRも面白いが、滑沢さという点では、ブレッドバンのシルエットで実用的な、3代目シビック Siには届いていないだろう。
現代人にとって理想的なデトックス・モデル
CR-X Siは軽さと短さが功を奏し、動的能力では一枚上手。より特別なホンダだと感じさせる。すっかり大きく重くなった現代のクルマは、一体感も薄まった。そんな体験からのデトックスを求める時、この小さなクーペほど理想的なホンダはないかもしれない。 ただし、この時代のボディは酸化しやすい。乾燥した南カリフォルニア以外の土地では、残存例が極めて少ないことが残念だ。 40年前のシビックとCR-Xで享受できる喜びは、現代のモデルでは得にくいものだ。より安全で快適になったとしても、もうこんなクルマは作れないという事実が惜しまれる。こんな気持になるのは、筆者だけではないと思う。