意外と見えない「フェンス越しの人」。|長山先生の「危険予知」よもやま話 第27回
長山先生、スイスで高速料金をぼられる!?
編集部:スイスにもアウトバーンはあるのですね。でも、高速料金はふつう決まった金額ですよね。いかがわしい飲み屋じゃないのですから、多めに取られるなんてことがあるのですか? そもそもアウトバーンは無料ではなかったでしたっけ? 長山先生:アウトバーンはスイスにもあります。ドイツのアウトバーンはトラック以外無料で、以前スイスも同じく無料だったようですが、私が1993年にレンタカーを借りて走ったときはすでに有料になっていました。※2017年当時、長山氏調べ(以下同) 編集部:そうなのですか。ドイツのアウトバーンも速度規制や有料化の噂は以前からよく耳にしますけど。 長山先生:ドイツのアウトバーンが有料化されるという話は、かなり現実味を帯びてきました。2017年4月の新聞に「3月末にドイツ連邦参議院(上院)がアウトバーンの有料化に関する法案を承認し、2019年から料金が科される見通しになった」という記事がありましたから。私は「あぁ、ドイツのアウトバーンも料金がいるようになったか」と思ったものです。 編集部:ついに有料化されるのですね。 長山先生:実は、ドイツのアウトバーンもすでに大型トラックには料金が科せられていました。ドイツはヨーロッパの中央に位置し、交通の要に当たるため、アウトバーンを通過するだけの外国車も多いのです。 編集部:首都高速でも都心を抜けるだけの車を“通過交通”と呼んでいますが、それと同じですね。 長山先生:そうです。ドイツ国内には何の利益ももたらさないのに道路の損傷は大きくなるため、1995年1月から、12トン以上の大型トラックにはヴィニエテ(Vignette)方式で、2005年1月から距離課金方式で有料化されてきたのです。 編集部:ヴィニエテ?? どういうものですか。 長山先生:ステッカーのことです。走行する期間に応じた料金をドライバーが前払いしたことが分かるステッカーを車のフロントガラスに貼ることで、料金を支払ったのかどうかゲートで確認するのです。スイスで料金をたくさん払わされたのも、そのヴィニエテ方式でした。ドイツのフランクフルト空港で借りたレンタカーでスイスの国境の地バーゼルに達したところ、ゲートがあって「あなたはスイスでアウトバーンを利用しますか?」と尋ねられたので、そのつもりだと答えたら、「それでは40スイスフランを払ってください」と言われました。 編集部:40スイスフランは日本円で4,400円程度(2017年当時)ですか? たしかにけっこう高いですね。 長山先生:無料で走れるドイツのアウトバーンに比べて高いなと思いましたが、仕方なく払い、渡されたステッカーをフロントガラスに貼りました。 編集部:多めに払ったということは、向こうが料金を間違えていたのですか? 長山先生:あとで分かったのですが、そのステッカーは1年間有効の通行券だったのです。 編集部:1年間ですか!? そんなに居ませんよね、そもそも。 長山先生:もちろんです。その時は後日スイスで行う調査の準備に来ただけでしたので、スイスに滞在したのはたった1日で、その後、ドイツで何日間か車を使って返しましたけど、1週間も使いませんでした。これも後で知ったことですが、ヴィニエテ方式はヨーロッパの各国(オーストリア、スイス、チェコ、スロバキア)で使われていますが、オーストリアでは有効期間は10日間、2か月間、1年間のものがあるようです。スイスは1年間のみだったようです。 編集部:それは高くつきましたね。外国人がレンタカーに乗っているわけですから、1年も使うことはないじゃないですか。 長山先生:そうですね。知っていれば、「高速道路は使いません」と言って、一般道路で行けばよかったわけです。「知らないことは怖いこと」という格言は、この場合にも当てはまったわけです。料金を高く払うという危険・失敗を防ぐためには、必要情報をよく知っておくこと、事柄を調べておくことという危険予知との共通点をここでも学んだわけです。 編集部:事前にスイスの高速料金のことまで調べるのは難しいと思いますが、何事にも予習が必要であるということですね。ところで、レンタカーはヴィニエテのステッカーを貼ったまま返却したのですよね? 長山先生:そうです。私が返したレンタカーを次に借りた人がスイスを旅行していたら無料で走れたはずで、私は他人に奉仕したことになりますね。 『JAF Mate』誌 2017年5月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です
長山泰久(大阪大学名誉教授) 1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAF Mate Online(ジャフメイトオンライン)の危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。
話・長山泰久(大阪大学名誉教授)