実は希少ではないダイヤモンドが高価な宝石になるまで、なぜ「心理的必需品」となったのか
「永遠の愛」と「ビジネスの屋台骨」
彼女のキャッチコピーは簡潔にして要を得ているだけでなく、「婚約指輪は思い出の品なので転売すべきではない」という思想も伝えており、これによって、複数回結婚する人にはそのたびにダイヤの婚約指輪を新たに購入することを奨励したと分析されている。 ダイヤモンドを「心理的必需品」に変え、収入や経済的プレッシャーやコストにかかわらずダイヤの指輪を婚約の必須アイテムにするというデビアスの野心的な目標は、見事に達成された。世界ダイヤモンド評議会によると、世界の宝飾品販売額は年間720億ドル(約11兆円)を超え、米国は世界最大のダイヤモンド市場になっている。一方、新たな鉱山の発見、ライバル企業の台頭、合成ダイヤモンドの出現により、デビアスはもはや世界のダイヤモンドの大半を支配しているわけではない。 インスタグラムをざっと見たかぎりでは、ダイヤの婚約指輪が近いうちに流行遅れになる気配はなさそうだ。今やダイヤモンド販売の主要な原動力はソーシャルメディアだと考えられており、新たに婚約したカップルの大半がソーシャルメディアで婚約を発表している。 コロナ禍以降、婚約指輪の売上が減少していると報告されているが、ダイヤモンド小売業者は、売上は好転するだろうと考えている。1960年にダイヤモンド・レディーが言ったように、「ダイヤモンドは宝石商のビジネスの屋台骨」であり、すべては巧みなマーケティングのおかげなのだ。
文=Erin Blakemore/訳=三枝小夜子