【アメリカから見たTPP(4)】TPPで「WTO」は不要になるのか?
米プリンストン大で行われたクリスティーナ・デイビス教授へのインタビュー(Matthew Kolasa撮影)
昨年10月、環太平洋経済連携協定(TPP)が12カ国の間で合意に至った。TPPは、WTO設立以来、最大の国際貿易協定となる。世界経済の40%を占めるTPPの成立によって、既存の自由貿易のための国際貿易体制であるWTO(世界貿易機関)の役割はどう変化したのだろうか。米プリンストン大学のウッドロー・ウィルソン国際公共政策大学院教授で、日米関係と国際貿易の専門家のクリスティーナ・デイビス教授に聞いた。
地域や二国間の自由協定に重点がシフト
WTOは162の国・地域の参加を誇るが、北米自由貿易協定(NAFTA)、欧州連合(EU)などの地域協定が、最も重要な国際貿易規制体制としてのWTOの地位を損なってきている。このことは、WTOにいまだに重要な価値があるのかという疑問につながる。 デイビス教授は「WTO体制は、複合的な困難に直面しています。ほとんどの国は、地域的、または二国間の合意を通じた新たな自由化交渉に大きな力を注いでいます。WTOの最新の大きな交渉であるドーハ・ラウンドに対しては悲観的なムードがあり、地域や二国間の協定にシフトしているのが世界の潮流だと特徴づけることは正しいと考えます」と話す。
国際貿易の基準としてのWTOの役割
一方で、デイビス教授は「WTOにはまだ役割がある」と指摘する。 デイビス教授の言う今なお大切なWTOの役割とは、国際貿易の基準としての役割だ。それは決して過小評価してはならないもので、特に2008年に経験したリーマン・ショックのような経済危機の際には役立ったという。「(WTOにより)加盟国が共通のルールに則り、共通の実施機構がありました。そして、困難な経済的状況から各国に保護主義が広がりかねなかった2008年から2009年の大恐慌の際に、WTOが一歩も引かずに原則を守ったのです」 「その結果見られたのは、遥かに穏健な反応でした。保護主義の壁が大きく出現することはなかったのです。これは、WTOが『保護主義は正しくない反応であり、我々は監視されている』という考え方に各国をまとめて、収斂させていたのが大きな理由です。私たちはみな、保護主義に走ろうとする本能を抑制しようと合意したのです。WTOの基準は、いまだに機能していると言えます」