【経済学者・岩井克人氏に聞く】トランプ政権誕生と生成AIの衝撃――2025年、日本の針路は?(後編)
日本を代表する経済学者・岩井克人氏に、世界と日本の行方について問うインタビュー。 トランプ政権誕生について聞いた前編に続き、後編のテーマは日本の会社のあり方と、成長著しい生成AIについて。生成AIの進化により、岩井氏自身の理論が岐路に立たされているといいます。 経済学者・岩井克人氏インタビュー トランプ政権誕生と生成AIの衝撃。2025年、日本の針路は? (前編) ***
以前のGoogleのおもしろさ
――これから日本の会社はどこに向かえば良いのでしょうか? おもしろい例が二つあります。 ひとつはGoogleです。 元々、NPO(非営利団体)的な形から始まったGoogleは、2004年にナスダックに上場する時に種類株を採用しました。発行する株式をA株とB株に分けて、A株は株式市場を通じて一般大衆に売り出す。B株はラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、エリック・シュミットといった経営陣が独占する。彼ら経営陣がもつB株には、株主総会における議決権がA株の10倍、与えられています。 これが何を意味するかというと、一般大衆に対してA株を発行することにより、リスクマネーを得る道を残しておきながら、10倍の議決権をもつB株によって、一般の株主には権限を渡さない。つまり、「物言う株主に物を言わせない仕組み」を作っているわけです。 それによって、研究者、エンジニア、従業員、経営者は、短期的な利益を求める株主からの圧力にさらされることなく、長期的な視野をもって仕事に取り組める仕組みが作り上げられている。 Googleは創業以来「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」という、とらえ方によっては歯の浮くような使命を掲げてきました。アルファベットという持ち株会社をつくり、その傘下になってからは、だいぶ普通の会社になってしまったようですが、少し前までのGoogleは、「Don't be evil(邪悪にならない)」という行動規範を掲げていたり、週に1日、つまり就業時間の20%を自由に使っていいというルールを設けたりもしていました。そういった人々の心を掴む理念や独自の就業ルールによって、お金では買えないインセンティブを従業員に与えることで、優秀な人たちを集めてきたわけです。