【経済学者・岩井克人氏に聞く】トランプ政権誕生と生成AIの衝撃――2025年、日本の針路は?(後編)
バークシャー・ハサウェイは「信用に基づく会社」
もうひとつの例は、ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイです。 彼らもGoogleと同じく、種類株を発行することで、バフェットとその仲間である経営陣が株主総会の議決権を完全に押さえています。実は、Googleはこのバークシャー・ハサウェイから種類株という仕組みを伝授されています。 バークシャー・ハサウェイの本社はネブラスカ州のオマハにあるのですが、毎年一回の株主総会に3万~4万人が集まります。「資本家のウッドストック」とも呼ばれる株主主権論の祭典のようです。だが、集まって、大騒ぎする株主は実は「物を言えない株主」なんです。 加えて、バークシャー・ハサウェイには、もうひとつおもしろい点があります。 株式投資で儲けたお金で、保険会社や鉄道会社など、さまざまな会社を買っています。 少し前に亡くなりましたが、バフェットの盟友で副会長をしていたチャールズ・マンガーという人が言っているのは、傘下の会社に関する経営方針は「トラスト・ベース」、つまり「信用に基づく」分権制だ、と。傘下の子会社に対しても、よほどの不正や経営不振がない限り、株主による監視・助言機能を行使せず、経営陣の自由に任せている。それによって、経営陣は短期的な利潤などに左右されず、長期的な視野をもって経営を行うことが可能になるわけです。
Googleとバークシャー・ハサウェイが示す「逆説」
ここには大きな逆説があります。 つまり、Googleとバークシャー・ハサウェイという、「株の国」アメリカにおいて最も成功している2つの会社が、ともに「物言う株主に物を言わせない仕組み」を作っているわけです。株式市場の仕組みを実際的にはさまざまな面で「ずらす」ことによって彼らは成功している。 このことは、日本の将来を考える上でとても重要です。
OpenAIの内紛の背景とは?
――バークシャー・ハサウェイの「信用して任せる」という姿勢は、ポスト産業資本主義の現代においては、相対的に「お金」の価値が下がり、差異性を生むことができる「人間」の価値が上がる、というこれまでの岩井先生の主張とも重なります。 まさにそうです。 だが、実は最近、私の理論に関して雲行きの怪しい部分があるんです。理由はもちろん、生成AIとOpenAI社の存在です。 OpenAI社は、以前のGoogleに似ていて、2015年にNPOとして誕生しました。目的はあくまで、「全人類のために汎用的AIを作ること」であり、利潤を求める組織ではなかった。ところが、ChatGPTを作り始めると、開発に巨額の資金が必要なことがわかり、2019年にマイクロソフトから出資を受けて、半分ぐらい営利会社に変わりました。 ただ、それでもまだ、株主への配当にキャップを設けるなど、非営利の要素を維持していました。その体制の下で、従業員も大いなる目的をもって、ChatGPTを作ったわけです。 ところが、ChatGPTが成功した途端にOpenAIでは内紛が始まりました。 CEOのサム・アルトマンは利潤追求的な部分が強く、完全な営利企業になることを発表しましたが、それを機に内紛が起きて、次々と社員が辞め始めたのです。 ここで重要なのは、OpenAI社が成功した背景にあるのは、組織がNPO的な側面をもっていた、ということです。利潤を追求するのではなく、「全人類のために」という目的を掲げていたからこそ優秀な人が集まり、一生懸命にChatGPTを作った。ところが、アルトマンが配当のキャップを外して、完全に営利企業になろうとしたことで、揉めているわけです。