磯村勇斗の表現者としての新境地とは? 村上春樹作品初のアニメーション『めくらやなぎと眠る女』への思い
仕事も私生活も自由に表現し続けたい
──磯村さんはお芝居をする上で自由さとはどんな風に向き合っているのでしょう? 私生活ではあまり縛られたくないタイプなんです。例えば親から「●●しなさい」と言われるとイラっとしてしまう(笑)。自由でいることはクリエイティブを生む力になり、それが個性を生むことに繋がります。もちろん仕事現場では監督やスタッフの方から何か要望を言われてもイラついたりはしません。固めずにどう自由に表現していくかっていうことは僕にとって永遠の課題なのかもしれません。 ──経験を重ねていくといくつか型ができていく場合もあると思うのですが、そことの戦いのようなものが生まれたりするのでしょうか? 確かに役者さんによっては自分の型を作ってそれに沿って演じる方もいらっしゃると思います。それもひとつの正解ですよね。でも僕はせっかくいろいろな役に出会えるのだから、役によって自分が自由に変身していくことができれば面白いと思っています。僕はしっとりした役を演じることが多いのですが、それとは違うわかりやすいキャラがある役に出会うと、特にこれまでとは違う自分になれている感覚があって楽しいですね。 ──例えばドラマ『不適切にもほどがある!』のムッチ先輩とかですかね。 そうですね。馬鹿げていて面白いキャラですよね(笑)。すごく楽しく演じられました。
──一方、10月に公開される『若き見知らぬ者たち』で演じた風間彩人は非常に過酷で重い役です。 ああいう役を演じるのはムッチを演じるのとは全然違う楽しさがありますね。自分のメンタルも変わってくるので辛いと言えば辛いです。だから、役者を目指している方に対して「役者って本当に大変な仕事だよ」と伝えたいです(笑) ──プライベートのメンタルにも役が入ってくるんですね。 そこまでずっと役を引っ張っているわけではないんですが、演じている役によってはマネージャーから「ちょっと怖い」と言われることがあります。でもやはり演じることが好きなんでしょうし、「やらなきゃいけない」という使命感があります。いろいろな部署の人たちがクリエイティブな頭でひとつの作品を作り上げていくことが好きですし、できあがった作品をお客さんに向けて上映したり放送ができることが好きですね。 ──ご自身が演じた役、携わった作品で特に人の心を動かすやりがいを感じたものというと? ムッチ先輩のことは本当にいろいろなところで言われました。今年の上半期は「磯村」より「ムッチ先輩」と言われることの方が多かったですね(笑)。違う現場でもそうでしたから。それぐらい影響力があるドラマだったんだと思います。 ──テレビドラマの影響力について考えることはありましたか? 配信で観られるドラマが多い時代になりましたが、テレビで放送されるドラマはやっぱりたくさんの人に認知されるんだなと思いました。でも『不適切にもほどがある!』はNetflixでの配信で知ってくれた人もすごく多くて。そういう時代の変化を感じた作品でもありました。僕たち役者陣もこれからどうメディアが変わっていくかを考えていかなきゃいけないなと思っています。 ──ムッチ先輩の反響によって、役の選び方に変化はありましたか? 最近何かを抱えて生きていく役が多かったんですが、一癖も二癖もある役を演じて気分を変えたいと思っている時期ではあります。極端に言うと、例えば『めくらやなぎと眠る女』のかえるくんのようなキャラクターを演じて自分の中でバランスを取っていきたいなと。幅を作ることで自分のリミッターをまた外していきたいと思っています。