磯村勇斗の表現者としての新境地とは? 村上春樹作品初のアニメーション『めくらやなぎと眠る女』への思い
──磯村さんも意見を言っていったんでしょうか? オリジナル版の口の動きを気にして声を合わせていかなければいけないので、例えば尺が足りない場合、「ここはもう一言足したほうがいいと思います」というような意見を言わせてもらうことはありました。ピエールさんはオリジナル版の英語のセリフをとても大事にしていたので、英語のセリフの感覚を意識しながら日本語を当てていく作業が必要とされたんです。小村の表情は最初から最後までほぼ変わらないんです。でも、オリジナル版の英語のキャストの方はいろいろな声色を使って感情を表していたので、表情が動いていない映像を見ながら声を当てていくとどうしていいかわからなくなることがあって(笑)。僕としてはフラットに話したくなってもピエールさんから「ここはもうちょっと踊るように表現してほしい」とリクエストされたりして、英語と日本語の音の波の違いを実感しました。 オリジナル版はキャストが実際にそのシーンの芝居をしているのを見ながら画を書くというやり方をしているので実写をベースにしているんですよね。キャストたちの会話劇を大事にしたんだなと思いました。ピエールさんと深田監督という感覚が違うおふたりの意見を合わせたら何が生まれるかということを楽しみながら向き合っていました。 ──役作りはどんなことをされたんですか? オリジナル版の英語のセリフを何度も聞き、そのニュアンスをどう解釈するかということを大事にしました。日本語に変えると少し意味が変わってくるケースがあるのですが、その差異をうまく埋めていけば良い形で日本語版の小村が誕生すると思っていました。とても難しい作業でしたね。ピエールさんがセリフのトーンにすごくこだわりがあって、アフレコの序盤に僕が出していた声のトーンに対して「ちょっと低い」という指摘があったんです。 そこで「高いキーも出して幅を持たせた方がいい。いろいろなキーの声が出せるようになるのは役者としての表現も広がることに繋がるから。だから、小村の声はいろいろなトライをして大丈夫だよ」と言われました。そもそも人間はいろいろな声のトーンが出るわけなので、自分の中であまり制限をしなくていいという風に捉えました。もっと自由に表現していいということを教えてもらった気がします。