[特集/プレミア戦線異常アリ 02]ペップ就任以来最大の危機 シティが「ゲームを支配」できなくなったワケ
サイド攻撃の停滞に、可変システムの無効化
シティがライン間攻略に固執する背景にはサイド攻撃の停滞があるのかもしれない。 第5節のアーセナル戦はサイド攻撃を封じられている。先発のサビーニョとドクは、シティで最も個の突破力に秀でたウイングだが、アーセナルはSBとサイドハーフがダブルチームを組んで封じた。 シティに限らず現在のウイングの大半は逆足である。右のサビーニョは左利き、左のドクは右利き。逆足ウイングの武器はカットインだが、守備側はウイングと対峙するSBとカットインのコースを遮断するSHの2人で対応するのでカットインが難しくなっているのだ。 ウイングから戻して攻め直しても、すでにアーセナルのMFとDFのラインが近接していてライン間は消されていた。ライン間を消されたのなら、迂回してウイングのドリブル勝負が定石だったシティにしてみれば、どちらも消されてしまったので攻め手を見出しにくくなっている。バルセロナのヤマルのような存在感を出せるウイングがいればいいのだが、サビーニョ、ドク、ヌネスはそこまでの力を今のところ発揮できていない。 さらに2-1でリードしたアーセナルが退場者を出したことで、新たな課題が浮上することになった。アーセナルは攻撃を諦めて[5-4-0]の完全撤退。ゲームはフットボールというよりハンドボールのような様相に。ペナルティーエリアのすぐ外に2ラインを敷いて専守防衛のアーセナルはライン間を完全に消滅させ、さらにサイドアタックのスペースも与えない。シティは圧倒的に保持しながら得点できない時間が続いた。 こうなってしまうと、アーセナルのラインの手前を横へパスをつなぎながら、ラインの隙間をミドルで狙うか、ハーランドを狙ってロブを蹴り込むかの二択。アディショナルタイムに何とか同点に追いついたものの、完全撤退すればシティでも崩せないという事実は対戦相手に希望を与えたに違いない。 しかし、シティにとって最も厳しい敗戦は第13節のリヴァプール戦だった。 シティは10個の1対1を作ってリヴァプールの攻撃を封じようとしたが、逆にデュエルでことごとく負け、決定機の山を築かれてしまう。ビルドアップすらままならず、前半を1失点で終えられたのは幸運ですらあった。 シティは可変の権威だが、マンツーマンでつかれれば可変は関係がない。保持できないシティは、保持するための選手たちの脆弱性を露呈することとなった。保持できなければ、すべての前提が崩れてしまう。バルセロナもそうだが、保持に特化したチームが保持できないときは大敗する。 リヴァプール戦が2-0で済んだのは、後半からリヴァプールがミドルゾーンから守る形に変えたからだ。少し余裕を与えられれば、シティは依然として保持力を回復することができた。オールコートマンツーマンで明らかに優勢だったリヴァプールが引いたのは、このやり方は何かの拍子に1対1で負ければ致命傷を負うリスクと隣り合わせだからだろう。後半開始時点ではまだ1-0だった。 逆にいえば、リヴァプールといえどもオールコートマンツーマンでなければシティのビルドアップを完全阻止することはできなかったわけで、シティからすべてを奪えるチームは極めて限られているか存在しないと思われる。 グアルディオラのチームは圧倒的に勝つべく設計されていて、圧倒できなければ負けやすい体質といえる。保持の効力は以前より減退しているけれども、再び効力を高められるかどうかは自分たちしだいで、すでに流動化という回答も手にしている。自分たちで崩れなければ挽回の可能性は残されているはずだ。 文/西部 謙司 ※ザ・ワールド2025年1月号、12月15日配信の記事より転載
構成/ザ・ワールド編集部