[特集/プレミア戦線異常アリ 02]ペップ就任以来最大の危機 シティが「ゲームを支配」できなくなったワケ
ボールは支配するもライン間が消滅
ボール支配によるゲーム支配。シティのプレイスタイルは一貫していて、これまではそれで目覚ましい結果を出してきた。ところが、ここにきてボール支配がゲームの支配につながりにくくなっている。 ほとんどの試合でボールは支配できている。問題はその先。ボールを保持して押し込んだ後の狙いは、主にライン間とサイドのアタックになるが、まずライン間が消滅しかかっている。 守備側のDFとMFの間にできるスペースへパスをつなぐのは、ゾーンディフェンス攻略の定石だった。ここへつなぐことで守備側のゾーン配置に歪みが生じるからだ。その歪みをついて崩しフィニッシュへ持っていく。 グアルディオラはバルセロナを率いていたときに、このライン間へつなぐパスワークの威力を存分にみせつけていた。そこで対抗措置として出てきたのがCBの前進による迎撃だった。CLでバルセロナと対戦したACミランがおそらく最初のケースだったと記憶している。この迎撃策は一定の効果があった。このメッシ対策として編み出された迎撃策はメッシ本人には長くは通用していない。しかし、メッシ以外に対しては効果的で、やがてライン間対策として一般化していった。 2014年ブラジルW杯のグループリーグでスペインを破ったオランダの5バックが典型で、いわばメッシのいないバルセロナだったスペインの攻撃を封じて大勝している。現在は[5-2-3]の守備ブロックに収斂しつつあるこのやり方は、CLリーグフェーズ第4節でスポルティングCPがシティに対して使い、4-1でシティを破った。 小柄な選手が多いライン間の職人に対して、巨体のCBを背後からぶつけていくこの守備方法は、体を止めてしまえばいいという気楽さもあって普及しているのではないかと思う。ボールを奪えなければファウルで潰してしまえばいい。奪われるかファウルで止まるかでは、ライン間へパスを入れるメリットがなくなってしまうので、攻撃側はそのルートを半ば諦めてくれる効果もある。 ただ、シティはこれに対して無策ではなかった。重要な攻め手を諦めてしまえば保持する意味が半減してしまう死活問題でもある。シティは複数の選手を流動的にライン間へ送り込み、CBの迎撃を無力化した。デ・ブライネ、ギュンドアン、ベルナルド・シウバ、リコ・ルイス、フォーデンなどライン間職人が入れ替わりながら出入りすることで、迎撃のタイミングを与えない。ちなみにこのやり方はフリック新監督下のバルセロナも採用している。 2-2のドローだったプレミアリーグ第15節のクリスタル・パレス戦では、[4-2-3-1]の基本システムのボランチであるベルナルド・シウバが頻繁にサイドへ流れてウイング化していた。左SBのリコ・ルイスが偽SBとしてボランチの位置に来るので、B・シウバがサイドに流れても中央にはリコ・ルイスとギュンドアンがいるからパスワークに支障は出ない。同様にトップ下のデ・ブライネも左右に開いて崩しの開始ポイントとして機能していた。B・シウバとデ・ブライネが中へ入ったり外へ出たりの流動性はシティらしく、面白いやり方だった。 ところが、それで画期的な効果が得られたかといえば微妙なのだ。B・シウバとデ・ブライネがサイドへ流れるなら、代わりにライン間にウイングが入ることになるのだが、サビーニョとヌネスはウイングであってライン間の職人としてはいまひとつだったのだ。 その前の第14節フォレスト戦は8試合ぶりに勝利していて、左SBグヴァルディオルがライン間に入っていく意表をつく策を採った。右サイドはデ・ブライネとB・シウバ、左はドクとグリーリッシュが組んでいて、明らかにライン間とサイドアタッカーの互換性を狙ったものだ。さらに伏兵的にライン間へ入ってくるグヴァルディオルもいて、フォレストはかなり混乱をきたしていた。3-0で快勝したこの試合は1つの答えを示唆していたかもしれない。 ただ、こうした奇策がいつも奏功しているわけではなく、リコ・ルイスを右ウイングに置いてライン間へ移動させたスパーズ戦(第12節)は、右でウイング化するのがウォーカーになってサイド攻撃の威力がなくなっている。 ライン間封鎖に対する策をさまざま講じる中で、シティをもってしても無理がかかってしまう事態もあったわけで、守備側のライン間対策が負荷になっていると考えられる。