【『虎に翼』でも話題の“日本の法”】憲法は、私たちが幸せに暮らすために、私たちが「使う」もの。『檻の中のライオン』著者・楾大樹さんが詳しく解説。<日本一わかりやすい憲法の授業③>
楾 私たちにできることはふたつあります。ひとつは、(1)意見を述べたり投票したりする。もうひとつは、➁裁判所を使う。 渥美 「裁判所を使う」というのは、例えば1年ちょっと前に話題になった、アクティビストの能條桃子さんが「被選挙権があるのが25歳以上または30歳以上に制限されているのは違憲」として、国を相手に「被選挙権の年齢制限の引き下げ」を求めて起こした訴訟のようなものですよね。訴訟を起こすために、年齢が理由で不受理になることを承知で25歳で県知事選に立候補したという。 楾 日本の裁判所は、憲法違反の法律が成立しただけでは違憲判決は出しません。憲法違反によって人権を侵害される事件が起きた後、人権を侵害された人が裁判所に訴えてはじめて、その人を救うのに付随して、違憲判決を出します。「付随的違憲審査制」と言います。能條さんも、単に「公職選挙法が違憲だ」と言うだけでは裁判所で取り合ってもらえないので、「被選挙権という憲法上の人権を使って立候補しようとしたのに不受理となり、公権力によって自分の人権が侵害された」という形をとったうえで訴訟を起こしたのです。 付随的違憲審査制具体的な訴訟(事件)があった時、その事件を審査する上で必要な範囲に限り、付随的に違憲審査を行う制度。 楾 たとえば「安保法制は9条違反だ」、「臨時国会を開かないのは53条違反だ」と訴訟を起こしても、あなたの人権が実際に侵害されたわけではないでしょ? と言われてしまい、憲法判断をしてもらえないというのが実情です。 それだけでなく、「高度に政治的」な問題については政治家(ひいては有権者)の判断にゆだね、裁判所は憲法判断をしない、という「統治行為論」もあります。たとえば、衆議院解散によって衆議院議員でなくなってしまった元議員が「衆議院解散は違憲だ!」と訴えたのに、この理屈で退けられた判例があります(苫米地事件)。日米安保条約は違憲だ! と争われた事件も、これに近い理屈で最高裁での憲法判断はされませんでした(砂川事件)。 同性婚の法制度を国会が作らずサボっているのは違憲だ、という訴訟も起こされていて、そのうち最高裁の判決が出ると思います。ただ、最高裁が違憲判決を出したとしても、それだけで原告は同性婚ができるわけではありません。法律を作ることができるのは国会だけだからです(41条、国会は「唯一の立法機関」)。裁判所が法律を作るようなことをすると、民主主義にも権力分立にも反してしまいます。 このように、裁判所に訴えたら何でも解決するわけではないのです。ですから、本筋は「(1)意見を述べたり投票したりする」ですね。「何やってんだよ!」と声を上げること。運動を盛り上げたり、政治家に陳情に行ったり。そして、投票で、自分の意見を実現してくれそうな人を選び、ふさわしくないと思う人が当選しないようにする。 立原 選挙に行っても、1人の力ではなかなか状況が変わらないんですよね……。もう少し根本的な解決策ってないんでしょうか? 楾 みんながそんなふうに思って何もしないと、本当に何も変わらないでしょう。私も、もう10年くらい頑張っていますが、それで何か変わったかというと、私の人生はすっかり変わってしまいましたが、世の中はさして変わっていません。砂漠に水を撒いているかんじです。でも全力で続けています。みんなで一緒に水を撒けば、いつかそこに緑が生い茂るかもしれない。ありがたいことに、私の活動に共鳴して一緒に頑張ってくださる方が全国各地に現れて、おかげさまで私は、年中全国を回って活動ができています。 とはいえ、ひしゃくで水を撒くより、大工事をしたいですね。そのために、政治の力で、教育の仕組みを変えることです。きちんと政治を教え、主権者を育成する学校教育の仕組みを作ること。憲法違反や権力者に都合のいい政治がまかり通ってしまうのは、政治家も悪いですが、私たちの意識や態度にも問題があるからです。政治家を選ぶのは私たちなのですから。多くの人が主権者意識を持ち、政治に関わろうとする態度であれば、政治家は緊張感を持ってちゃんとした仕事をするはずです。そういう民主主義の土壌を作っていかなければなりません。それは、学校教育の役割です。
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