「すー、すー」女子高生が電車で感じた荒い息遣い 「触らない痴漢」横行、立証難しく泣き寝入りも
電車内で女性の髪のにおいを嗅いだり、首筋に息を吹きかけたりする「触らない痴漢」が横行している。京都府警が検挙したケースもあるが、身体的な接触がないため、痴漢と比べて犯罪行為の立証に難しさがあるという。交流サイト(SNS)を中心に被害を訴える声が上がる一方、被害者が泣き寝入りしている実態があるとみられる。 【画像で解説】「触らない痴漢」どんな行為? ■背後に密着「気持ち悪い」 6月中旬の朝、京都市伏見区を走る電車の中で女子高校生(16)が「すー、すー」と荒い息遣いを感じた。振り返ると、不自然に背後に密着した男に髪のにおいを嗅がれていた。高校生は「気持ち悪い」と思ったが痴漢かどうか判断できず警察に相談することができなかった。約20日後、男が電車内で再び高校生のにおいを嗅いでいる現場を警戒中の警察官が確認し、被害が明らかになった。 伏見署は10月、府迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)の疑いで男を逮捕した。府警によると、宇治市に住む48歳の男で、同種行為を繰り返しているとして以前に府警から警告を受けていた。逮捕前の任意の調べに「週5日ほど電車に乗り、女性のにおいを嗅いでいる」などと話し、府警は悪質性があると判断して逮捕に踏み切った。 「触らない痴漢」が近年問題視されている。電車などの公共の場所で、背後や横に立って髪や首筋のにおいを嗅ぐ▽首筋や耳に息を吹きかける▽スマートフォンに表示した卑わいな画像や動画を見せる▽聞こえるように卑わいな言葉を発する-といった手口がある。 一般社団法人「痴漢抑止活動センター」(大阪市)の松永弥生理事は「被害自体は昔からあったが、SNSの普及で被害者の声が多く上がり、新たな痴漢の手口として認知されている」とみる。内閣府が2月に行った調査では、これまでに痴漢の被害を受けたという約2300人のうち、約12%が「においを嗅がれた」「わいせつなことを言われた」「わいせつな画像を見せられた」と回答している。 ■不審な動き、迷わず相談を 被害者は多数に上るとみられる一方、立証は難しいのが現状だ。これらの行為が痴漢を処罰する迷惑行為防止条例の「卑わいな行為」に当たると判断できるかが、検挙の可否の分かれ目となる。京都府警の捜査幹部は「息をしていただけと言われると逮捕は難しい」とし、反復性や執拗(しつよう)さ、警告の無視など明白な悪質性を示す必要があると指摘する。 被害者がその場で声を上げにくい実情もある。松永理事は「『勘違いだ』『何もしていない』と言い逃れをされるかもしれないと思うと、被害を言い出しづらい」と懸念する。こうした事情から、今年、府警が「触らない痴漢」に当たるとみて検挙したのは伏見署が逮捕した1件にとどまっている。 府警は行為をした人への口頭注意や警告を強化している。相談や情報提供を受けると、行為者に対する直接の注意や、電車内での警戒活動を行っている。鉄道警察隊の松谷泰副隊長は「被害に遭ったり、電車内で不審な動きをしている人を見つけたりすれば、迷わず相談してほしい」と呼びかけている。鉄道関係の性被害窓口075(682)0913で受け付けている。