80年代女子プロ描く「極悪女王」。友情や葛藤、悪役レスラーとして活躍する姿に思わず流れる涙
■ゆりやん「自分のボーダーを超えられた」 ダンプ松本を体型から体現したゆりやんレトリィバァは「これまでの殻を破って、自分の感情と向き合えたことに感謝するばかり。いままでは、自分のなかのボーダーラインを超えて感情を表に出すことができませんでした。この作品に出合って、自分がボーダーを超えられることも、その超え方も、引き出してもらいました」と熱く語っている。 一方、総監督を務めた白石和彌氏は「これまでにいろいろな作品を作ってきましたが、死ぬ前に見る作品は『極悪女王』だと思います」とまで語るほど思い入れの強い作品であることを明かした。
そんな熱量が存分ににじみ出る、エネルギーにあふれた作品なのだ。 レスラー役の女優たちの熱演が光る本作だが、そんななかでひと際、存在感を放っているのが、プロレス団体運営者のひとりを演じた斎藤工だ。 80年代の興行者のうさんくささを見事に体現し、いまの時代から見た滑稽さを巧みに演出している。とくに前半とは印象が変わる後半の怪演ぶりは、思わず笑ってしまうほどのインパクトがある。本作のキーマンでもあるだろう。
そんな彼のセリフが本作のテーマを伝えている。 「実力でトップが取れるならアマチュアと一緒。実力以上の魅力がないとプロの世界のトップは務まらない」 そんな世界を必死に生きた彼女たちの感情には、現代人も共感できる普遍的な要素が多いと感じる。時代は変わっても、誰もが社会で生きるなかで、何かしらの悩みや葛藤を抱えている。彼女たちのなかに、自分自身の姿を見ることがあるかもしれない。 ■ラストシーンでは涙が自然に出てくる
彼女たちの闘いにいつのまにか引き込まれて、感情移入しながら物語に没頭していると、ラストシーンで胸が苦しいくらい熱くなる。そして、涙が自然にあふれてくる。 その感情の正体は、喜び、うれしさ、悲しさ、悔しさといったひとつの要素の感動ではない。社会で生きるなかで抱くさまざまな感情が織り交ぜられた、心の震えなのだ。それは心地よくもあった。 本作にはそんな感情の揺さぶりがある。誰もが何か感じることがあるであろう、この秋必見の配信ドラマだ。
武井 保之 :ライター