80年代女子プロ描く「極悪女王」。友情や葛藤、悪役レスラーとして活躍する姿に思わず流れる涙
プロレスは、興行として成功させなければ、団体が存続しない。そのために、テレビ放送には絶大な影響力がある。プロレスの成功に不可欠なのは、スポンサーやテレビ局であり、彼らが求めるのはスターの存在だ。 だからこそ、試合の勝ち負けには政治的な力関係が働くこともあり、選手たちの間にはさまざまな鬱屈や屈折も生まれる。そして、スターは時代とともに移り変わっていく。そこには激情の人間ドラマが渦巻いている。 ■嫉妬や苦悩、葛藤しかない舞台裏
当時のスターだったジャッキー佐藤を破って、団体のトップに立ったジャガー横田(水野絵梨奈)は、クラッシュ・ギャルズの人気が出てくると自身の立ち位置が危うくなる。団体がクラッシュ・ギャルズをフィーチャーしようとするなか、自分は「かませ犬ではない」と横田が反発するシーンがある。 また、もともと正統派のプロレスラーを目指していた松本香は、同期であり親友の長与千種と研鑽を積んできたが、松本はまったく芽が出ない一方、長与はスターとしてどんどん大きくなっていく。そんななか、ある出来事がきっかけになり、松本はヒールの道を突き進むことになる。
そんな彼女たちの内面には、激しい嫉妬や苦悩、葛藤にあふれている。どんなに悔しくて苦しくても、ときにはプライドを捨てるしかない。それでも歯を食いしばって一生懸命に生きていく。 テレビ放送のゴールデンタイム枠で、血みどろの女性たちが闘うプロレスの流血試合が生中継されていた時代に、社会や組織、自身のプライドと闘いながら、必死に生きた女性たちがいる。 そんな女性たちの生き様を赤裸々に映すから、その映像にはとてつもなく大きな引力がともなう。
本作には、多くのプロレスシーンがある。5年を費やした制作準備期間のなかで、女優陣はプロレス道場に入門し、体作りと技の練習に明け暮れた。その結果、プロレスシーンの99.9%が吹き替えなし。それぞれが演じた当時のレスラーたちへの感情移入もあり、熱い思いがこもった撮影になった。 身も心もこの作品に投じた唐田えりかは、撮影を振り返り「私にとって本作はこれからの人生を考えたうえでの挑戦であり、覚悟のひとつでした。もし、この作品に出合えていなかったら、自分はどうなっていただろう……。自分はまだまだがんばれる、がんばらなきゃいけないと思わせてくれた現場でした」と配信記念イベントで涙を流した。