80年代女子プロ描く「極悪女王」。友情や葛藤、悪役レスラーとして活躍する姿に思わず流れる涙
一方、ダンプ松本(ゆりやんレトリィバァ)は、クラッシュ・ギャルズの宿敵であるだけでなく、日本中を敵に回してリング内外で大暴れする。もともとジャッキー佐藤に憧れて女子プロレスの門をたたき、当初は「優しすぎて悪役には向かない」と言われていたひとりの少女・松本香は、いかにして日本史上もっとも有名なヒール・ダンプ松本へと変貌したのか。 物語の前半は、正統派プロレスラーとしての成功に憧れながらもクビ寸前だったダンプ松本が悪役に転身するまでを、貧困家庭でDVを受けていた幼少期から描く。
そして後半では、スターへと駆け上がる長与千種、ライオネス飛鳥ら同期の仲間たちとの確執と闘い、友情のなかに生じる、さまざまな代償や葛藤を抱えながらダンプ松本がヒールとして成り上がっていく様を描く。 同時に、彼女の家族との衝突や、時間を重ねながら少しずつ変化していくその関係性にも踏み込み、ダンプ松本の激動の半生を立体的に映し出している。 ■80年代を熱狂させた女子プロ 本作が描くのは、自分の夢や目標のために一生懸命に生きる女性たちの姿だ。プロレスのアクションドラマのように思われがちだが、その裏にある人間ドラマが本筋になる。
テレビで毎週生中継されるプロレスは、80年代のエンターテインメントのメインストリームのひとつだった。そこで闘う選手たちは、子どもたちのスターであり、手に汗握る熱戦は大人たちも熱狂させた。 もちろん、当時もドラマや映画、舞台といった娯楽はある。それでも、生身の人間同士が激しくぶつかり合い、血と汗と涙と絶叫が飛び交うプロレスが生み出す熱気や、そこから伝わる気迫のようなものは、社会を熱狂させた。 ひと握りの才能が生き残るプロの世界。その裏には、プロレス試合の体のぶつかり合い以上に激しい、ヒリつくような女性同士の意地とプライドの衝突がある。そして、そこは実力だけの世界ではない。