異国の店主と土地の味。/チベット料理店『チベットレストラン&カフェ タシデレ』
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、 料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) チベット料理は初めていただくので、わからないことだらけで……。まずは主食のことから聞いてもいいですか? 土井さんからのコメント。「優しい香りと味のチベットのお料理はなんとなく懐かしい気分にさせる、日本の味に近しい味でした。モモやティンモなど小麦粉を使った料理はとても食べやすく、家族で楽しめるレストランです。」
ロサン・イシ(以下、ロサン) チベットは平均高度4000mで作物が育たない乾燥した高地なので、低地から運んできた大麦と小麦がメイン。大麦を炒って石臼でひいて粉末にした「ツァンパ」が主食です。お粥やシチューなどにもしますが、バターと塩と牛乳が入った「バター茶」というお茶で練って団子にして食べることが日常的。朝も昼も夜も関係なく、いつでも食べます。食卓では、バケツみたいに大きい器にツァンパが入っていているので好きな量だけとって作り、遊牧民はツァンパを革の袋に入れて持ち歩き、目的地に着いたらお茶を沸かして作るんです。
土井 ホロホロ感とねっとり感があり、日本でいうと、きな粉を固めたようなテクスチャーですね! 肉や野菜だと、どんなものを食べられるんですか?
ロサン 肉なら、ヤクや羊が多いです。野菜は、高地ではほとんど育たないので、低地で作られたじゃがいもや大根などを手に入れます。調理するときはスパイスはあまり使わず、基本は塩のみで、香辛料は使ったとしても唐辛子くらい。食材も味付けもすごくシンプルですよ。ただ、本来のチベット料理をそのままレストランのメニューにするとあまりにも質素なので、日本で手に入る材料や調味料を使ってアレンジしたものをお出ししています。
土井 どれも香ばしいけれど辛さはない優しい味付けで、とても食べやすいです。日本人は好きな方が多い気がします!
ロサン あと、ワタシはネパール生まれ南インド育ちの亡命2世なので、カレーやダールなどのインド料理もメニューに入れています。なんでインド料理? って不思議がる方も多いですが、故郷を知らずに育ったチベット人にとってはインドやネパールの食事が第二のソウルフードなんです。
土井 日本では、亡命のことなどチベットの話を知る機会が少ないので、ロサンさん自身の生い立ちも交えてチベットのことを教えていただいてもいいですか?