「白い巨塔」を地で行くような困難が待ち受けていた。福島甲状腺検査、「アリバイ作り」のようだった有識者会議【下】
◆「白い巨塔」を地で行くような困難が待ち受けていた
ーー髙野先生は「福島甲状腺検査はこれまで2回は立ち止まれるチャンスがあった」と話されています。 1回目は2014年に韓国のデータが出た時です。小さい甲状腺がんを手術していったら過剰診断になるというものですね。同時に、小さな甲状腺がんは成長しないというデータも神戸の隈病院(甲状腺疾患の専門病院)から出ています。 これらを受け、当時も福島甲状腺検査を問題視する委員らが「過剰診断ではないか」と指摘しましたが、これも十分に議論されずに終わってしまいました。 そもそも隈病院から始まった「小さな甲状腺がんはできるだけ診断しない・治療しない」という方針は、世界的には常識になりつつあるものなんです。しかし、なぜか福島甲状腺検査ではそれに逆行することが行われている。そこに闇があるのだと思います。 2回目は2018年に私と祖父江友孝氏が甲状腺検査評価部会で検査の改善案を県に提出した時です。検査の住民への説明の問題と検査体制そのものの問題を指摘したのですが、検査体制の問題を指摘した文書は検討すらされませんでした。 検査の説明に関しては、検査を受けると健康上の利益があるように誤解させる文面になっていることや、検査の有害性についての記載がわかりにくいことなどを指摘しました。 しかし、問題点の改善に反対する委員が多かったため、結局有耶無耶にされてしまいました。 ーー検査を容認し続けている福島県に問題はありますか。内堀雅雄知事は韓国の事例が出た2014年に就任し、それから10年間もこの問題を見過ごしているとも言えます。 単なる感想ですが、福島県庁は事なかれ主義で、問題を先送りにして自分たちが責任を取らされる立場にいる間は表に出ないようにしてやり過ごそうと考えているのではないでしょうか。 さらに県民健康調査全体では1000億円という莫大な予算がかけられており、これが実質的に利権化している上、国も関わっています。地元メディアも過剰診断に関する質問を避けているような気がします。 本当はここで医師をはじめとした医療者が毅然とした態度で問題点を指摘し、解決への道を開かなければならないところですが、検査の有害性について警鐘を鳴らそうとした人たちを待ち受けていたのは、「白い巨塔」を地で行くような困難だったように感じます。 私も当然含まれていますが、彼らは検査をさらに推進しようとしている他の専門家たちやメディアの批判の対象になりました。 御用学者とのレッテルを貼られたり、職場にクレームが入るようになったりしましたし、学会では「過剰診断の被害を言い募っているのは一部の迷惑な人たち」といった批判が飛んできます。 さらに、それまでいた職場を去らなくてはいけなくなった人たちまで出てきたのです。このような状況で、医療者の間では福島甲状腺検査の有害性を語ることはタブー視されるようになりました。