なぜV4に成功した井岡一翔はKO決着を封印したのか…”リトル・パッキャオ”が「当たっても倒れる気がしなかった」と嘆いた技術
政府が「オミクロン株」の水際対策としての外国人の新規入国禁止の方針を決めたことで悲願の統一戦が流れた。その時の喪失感を「心に穴が空いた」と井岡は表現した。朝起きて妻に「おはよう」と言われても、その声さえ耳に入らない。 「大丈夫?しっかりしてよ!」 妻に励まされた。「幸せを感じる」家族の存在は、井岡のなによりの戦う理由である。 家族に心配をかけたくはない。そして井岡は、この10年間の戦いを振り返った。 「ここで立ち止まったら、突っ走ってきた意味がない」 代替候補として仮想アンカハスとも言えるサウスポーのアジア最強王者が国内に存在していたことを「ラッキーだ」とも思った。 天からチャンスが降って湧いた福永にとってみれば、映画「ロッキー」を地でいくようなストーリー。異名の主である”レジェンド”マニー・パッキャオも対戦相手変更のチャンスからスターダムに駆け上った。逆にモチベーションを失いかけた井岡から見れば、アップセットが起きる危険性がある試合であり、メリットのないタイトル戦ではあった。 井岡は、「その不安、プレッシャーはあった」と、告白した上で、こう続けた。 「そこに挑戦するのが井岡一翔。チャンピオンだからこそ、挑戦し続けなければならない。統一戦だけをやりたいと、ふんぞりかえっていても流れはこない」 新型コロナ禍に苦しんでいる人たちがいる。 「人生にはいろんな困難があり自分で予想できないことがある。臨んだ試合ではなかったが、戦うことに意味がある。その戦っている姿を見てもらえたらと」 それが10度目の大晦日のリングから井岡が伝えたいメッセージでもあった。 延期となったIBF王者との統一戦への前哨戦はクリアした。井岡自身も「テストマッチとして意識していたことはできた」と内容に手応えを感じ、前述の内山氏は、「まったく無駄な動きがない。アンカハスは前半出てくるが、今日のような内容なら後半ポイントを取れると思う」と、アンカハス戦の勝算が見えた試合だったと評価した。 ターゲットにしているアンカハスは2月にリオ五輪代表で無敗のフェルナンド・ダニエル・マルティネス(アルゼンチン)と10度目の防衛戦を戦うことが決まっている。ただ、IBFは1月に挑戦者決定戦をセットしたため、対戦時期は、まだ不透明。それでも井岡はぶれない。 「次は統一戦?それしかない。でも、ここまできたら統一戦に我慢強く動いてもらって、僕はそれに備えるだけ。自分の思うようにいかないもの。どうなっても挑み続ける」 一方の敗れた福永は「人生は変えられへんかった。ダメですね…すべてを出し切ったけれど、勝たへんかったらなんも意味がないんで」と唇をかみしめた。今後の進退については「35歳でこれ以上ないかな…ちょっと休んで考えたい」と涙ぐみ言葉を濁した。日本、WBOアジアパシフィック、OPBF東洋太平洋と保持していたベルトはすべて返上。退路は断っていた。 鈴木会長は「35歳。もう辞めどきじゃないか」と引退を勧告した。「型枠大工」の1人親方として立派に食い扶持を稼ぐ、もうひとつの顔を持つボクサーは、5日から仕事が入っているという。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)