山口壮大が「ファッション×障がい」作品で放つ「ファッションの社会的価値」 【ファッション・フォームズ前編】
――なぜつくば市を選んだのですか?
山口:つくば市になったのは、あくまで結果です。つくば市は、一緒にプロジェクトを行った純子さんがお住まいなので近隣の地域で生活している方にモデルのオファーをしてくださったことがきっかけでしたが、調べるとSDGsの観点のもと「つくば市障害者計画」を掲げ、当事者に向けた福祉サービスを積極的に取り組んでいる都市でもありました。この企画にご賛同くださった幸和義肢研究所もつくば市にあり、こちらの会社が年に1回開催される福祉機器展の中で作品を上映させてもらいました。
――「トゥルーカラーズファッション」の前例があったとはいえ、今回のプロジェクトはゼロから形にしているように感じました。
山口:そうですね。まずは僕たちと当事者、そしてご家族との関係性を作ることが必要だと感じたんです。だから時間があれば直接会いに足しげく通いました。みなさんからすると普段生活していてファッションディレクターやデザイナーと会う機会なんてないですよね。僕たちもつくばにお住まいの障がいを持った方とは初めてだったので、彼・彼女たちの好みを知る、どんなことでお困りかを知る、ときにはご自宅にお邪魔して日常生活を知ることから始めました。
――5人のデザイナーはどのように決めましたか?
山口:最初に僕と純子さん、当事者とご家族の方との対話を何度も繰り返した後、僕の方でそれぞれの当事者に合うデザイナーに依頼しました。ドキュメンタリーを観るとわかると思いますが、僕は「こういう服を作って欲しい」とデザイナーに依頼をしていません。当事者とデザイナーが対話をしながらより良い「かたち」に仕上げてくのが理想で、僕は各々が完成に至るまでの道筋を一緒に作っていったという感じです。
――なぜ映像作品に?
山口:僕たちの出会いから服が出来上がるまでのプロセスを残したかったんです。ファッションショーも検討しましたが、当事者の身体的な違いは明確に伝わるしお祭りのような高揚感を味わえるけど、打ち上げ花火のような一過性のものにしたくなかった。今回のために作った服を継続して着てもらいたかったので、日常生活に支障をきたさないデザインを心がけると、ファッションに精通している人たちが見て、当事者が「映える」かと言われれば正直インパクトは弱くなってしまいます。ドキュメンタリー映像であれば時間と場所を移しても伝えられる機会はあるし、盛り込める情報も多い。例えばデザイナーの哲学や、アイデア、当事者の心境の変化など、あらゆる側面から伝えられることを観てくれた人に持ち帰って欲しいという想いに至りました。