山口壮大が「ファッション×障がい」作品で放つ「ファッションの社会的価値」 【ファッション・フォームズ前編】
山口壮大インタビュー「目指したのは日常を彩る服」
PROFILE:山口壮大/ファッションディレクター プロフィール
(やまぐち・そうた)1982年、愛知県常滑市生まれ。文化服装学院(第22期学院長賞受賞)を卒業後、2006年からファッションディレクターとして活動開始、2006年3月には下北沢の雑居ビルでセレクトショップ「ミキリハッシン」をオープン、2009年1月に原宿キャットストリートへ移転。18年から「カルチュラルラボ」を始動
6月のキックオフミーティングから約5カ月がかりで服を完成させたこのドキュメンタリー作品「ファッション・フォームズ」は、ファッションデザインはあらゆる人に寄り添い生活を豊かにすることを伝えてくれる。山口壮大氏は、なぜこのプロジェクトを行ったのか。その真意を聞いた。
――今回のプロジェクトのきっかけは?
山口壮大(以下、山口):2021年5月にファッションディレクターを務めたイベント「True Colors FASHION(トゥルー カラーズ ファッション):身体の多様性を未来に放つ ダイバーシティ・ファッションショー」の際、モデルの一人として参加していた五十嵐心音ちゃんの母・純子さんとイベント後も連絡を取っ合っていて、純子さんから「もう一度、地元でファッションショーのようなことができないか」という話をもらったことがきっかけです。「トゥルーカラーズファッション」のようなプロジェクトを一過性で終わらせたくないと僕も考えていたので、「僕ができることがあれば!」と二つ返事でした。
――こだわったことは?
山口:地域を限定すること、オンラインを使って積極的に対話をすること、意図的に感動させる演出にしないこと――という3つの点です。「トゥルーカラーズファッション」では多種多様な身体や性別、年齢、障がいを持つ人と一緒にショーを行いました。その経験から、今回はあえて地域に制限を設けて特定の当事者に向けたファッションにフォーカスしようと考えました。地域を限定すると生活が見えてくると考えたんです。たとえば、車椅子を使って生活してたとしても、障がいの症状も、体型も、生活環境も、価値観も違う。服でいうと自分で着るのか、着せるのかで大きく違いますよね。ファッションから見えてくる、着る人の生活や置かれている環境に焦点を当てたかったんです。「困ってるから服を作る」のではなく、対話を重視しながら、各々の生活に寄り添い、日常を潤してくれる服が必要だと考えたからです。なので最終的には、プロジェクトを、スタートしてから完成までの約5カ月間を1時間程度にまとめた記録映像にしました。わかりやすい感動作品にはしないと、制作期間ずっと考えていました。企画の意図が観客に伝わり、心が動いて、感動するというプロセスならば嬉しいのですが、演出で意図的に感情の抑揚をつけたり促したりすることは避けました。感動させることが目的ではないので抑揚がなく淡々と進んでいくように心がけましたね。