山口壮大が「ファッション×障がい」作品で放つ「ファッションの社会的価値」 【ファッション・フォームズ前編】
作業服から飲食店の制服など企業向けのユニフォームをデザインしているハイドサイン社のデザイナー島中由希氏は、普段車椅子に乗り、つくば市に拠点を置く義肢メーカーの幸和義肢研究所社員でもある鈴木真美さんが右手に麻痺があっても自分で着やすい服をデザイン。袖の長さや脇の分量、開閉しやすいファスナーの位置、摘みやすいよう大きめのリングパーツを選び、普段はご家族からの介助を必要としている真美さんが他者の手を借りることなく自立して毎日の生活を送れるように仕上げた。
山口壮大氏がディレクションする日本の伝統文化と最新テクノロジーを掛け合わせながら新しい暮らし方を提案する『コリショウプロジェクト(KORI-SHOW PROJECT)」は、筋肉が弱くなる進行度が一般よりも早く、日常的に介助が必要な保坂鉄平さんに座っていても履ける袴を制作。障がいを持っていると“弱い”と思われてしまいがちな社会に対してアピールしたいという鉄平さんに、履かせやすいスカートの形式にしながらも男性の強さである袴の表層的なデザインをカスタムできるような提案で彼の自己肯定感を後押しした。
文化服装学院に在学しながら、ファッションとコミュニケーションを軸に社会の中で実験する「カルチュラルラボ(CULTURAL LAB.)」に所属している湯浅琴音氏は、コミュニケーションが取りにくく、目で見えている範囲も狭いという特性を持っている五十嵐心音ちゃんが反応する言葉や音に着目。生成AIに言葉を入力し、生成される大量の画像を心音ちゃんに見せて、笑顔になったり、反応があったものを服のテキスタイルとして採用した。母・純子さんは「一方的なコミュニケーションしか取れないと思っていたが、生成された画像を見ると娘の頭の中を見ているようで感動した」と笑顔で答えてくれた。知的に遅れがある心音ちゃんだが、ファッションとテクノロジーの掛け算が新しいコミュニケーションを生み出した。