上場目指す“寝たきり社長”24歳、「体が動かなければ、頭を働かす」
「彼はサイトのアクセス解析をしてくれているのですが、本当に給料がもらえるとは思っていなかったようです。でも、口座を見たら実際にお金が入っていた。そのお金で、家族にお寿司の出前をとってあげたらしいですよ。今では『働けるとは思ってなかった、死ぬまで働きたい』と言ってくれて、僕も嬉しくなってしまいました」。 もう一人の埼玉に住む23歳の社員については、こう話す。「有名大の法学部を首席で卒業したんです。でも、就職活動では『筋ジス』だということだけで『無理』と言われてしまいます。でも、頭がよくて、成長がすごいんです。ウェブ制作技術のすべてを吸収していく。上司である副社長の松元も『やべぇ』と言って警戒するくらい。こんなに嬉しいことはないですよ」。 世の中には、部下の成長を嫉妬したり、自分より能力の劣る部下に優越感を感じたりするリーダーや課長がごろごろいる。そういう心理がビジネス実務書のテーマになることだってあるのに、寝たきりのハンデを抱えながら、わずか24歳でその境地に達するものなのか?
「社員全員が障がい者の会社」を上場させる
「諦めずに最後までやるタイプ」と自身を評価する。佐藤さんは「体は動かないけれど、頭は人と同じように働く」と言ってはばからない。「会社を作ったときも、1~2年で潰れると言われたけど、4年続いている。いまでは上場したいんですよ」と言い始めた。それも社員全員が障がい者の会社。 「本当に?」と驚いた。「そうやって笑われるけど、何でも言ったことを実現したときの達成感が気持ちいいんです。高校のときは有名人になりたいと先生に宣言しました。今では、こうやってメディアにも取材されるし、有名が実現してきているでしょう?」と言う。「なると言ったことは、なるんですよ」と話すそのときの表情は、真剣そのものだった。 インタビューが終わって帰り際、佐藤さんは「僕には運があるんです」と言った。私は「運は努力の結果、勝ち取るものと言いますよね?」と返したが、佐藤さんは「そうではない運もあるとは思いませんか?」と悟ったように言う。 自分が不自由な体に生まれてきたことをまったく恨んでいなかった。上を向いて、楽観的に構えていると降ってくる運もきっとあるのだろう。佐藤さんは、そんな運のつかみかたを知っているに違いない。 「下を向いちゃうとチャンスが向こうに行っちゃうから。寝たきりだと下を向けないから。後ろも振り向けないから」。そう笑いながら私を見送ってくれたのだった。