上場目指す“寝たきり社長”24歳、「体が動かなければ、頭を働かす」
アプリの開発にもチャレンジしてみた
佐藤さんと話をしていると、難病の患者であることをまったく感じさせない。ポジティブでアグレッシブにビジネスに取り組む青年実業家のイメージしかない。彼の悩みは体が自由に動かないことではなく、会社をどう大きくしていくかということにある。収益の多様化は検討事項の一つで、昨年はスマートフォンのアプリ制作にも取り組んだ。 「普通なら、障がいを持った人でも操作しやすいアプリとか出すと思うでしょう? それも考えたんですが、僕らは体が不自由だから、人の歯を磨くことができないなと思って作ったのがこれです」と紹介してくれたのが、iPhone用のゲーム「おおきく口をあけて!歯みがき日和」だ。 「帰りの新幹線で遊んでみるよ」と伝えたら、「止めたほうがいいです。絵と音が恥ずかしいですから」と笑われた。東京に戻ってきて、アプリをインストールして遊んでみたけれど、そのアドバイスに感謝した。歯を磨いてあげると、いわゆる「萌え系美少女キャラ」が「センパイ!」「ええっ!?あっ、いや!そこまではちょっと」などとアニメ声で反応する……。 ゲームのプロデューサーを務めたのが松元さん。松元さんが構成や進行を考え、名古屋市の IT特化型障害者就労移行支援事業所「テリオス」にプログラミングを依頼、声優さんを雇って音声を録音してもらった。アプリは1万ダウンロードを超えたものの、掲載される広告で収益を上げるには厳しかった。「黒字にならなくても、開発費用くらいはペイできればと思っていましたが、それも遠いです」と残念がる。 「松元がエンターテインメント要素の強いのをやりたいって言うのですが、『仙拓』と目指す方向性違うから……」と2014年12月、松元さんが代表を務めるアプリ制作子会社「ムーンパレット」を設立した。現在もゲームアプリを制作中で、近くリリースする予定だという。
障がいを持った社員が活躍できる場を作りたい
会社設立初年度の売上は約76万円だったが、2014年の年商は約300万円へと成長した。「障がい者雇用を進めていきたい」と言う佐藤さんは、社員が活躍できる場の提供にも熱心に取り組む。いまでは従業員2人を雇うようになった。いずれも筋ジストロフィー症の重度障がい者だが、ITを駆使しながら在宅で勤務する。 1人は、大阪に住む大学院卒の37歳の社員。最初、「働かないか?」と声をかけたら、彼に怪しまれたのだという。そもそも難病を抱えていると、働くという選択肢は生活のなかにない。通院以外に外出しないのが日常なので、就職という「うまい話」が飛び込んでくると「騙されているのではないか?」と感じてしまったのだという。しかも「寝たきりで働けます」と言われたらなおさらだろう。