上場目指す“寝たきり社長”24歳、「体が動かなければ、頭を働かす」
健常者に近づかないといけないのか?
道具は進化しても、社会の仕組みや人々の意識はまだ進化していないのかもしれない。佐藤さんが自分で会社を作ったのは、単純に「重度障がい者の働く場所がなかった」からだ。 佐藤さんが、養護学校の卒業を間近にひかえた2009年夏、就職先にと考えていた授産施設の実習にでかけた。作業の終わり際に60歳代の車いすに乗った男性に出会う。 男性はこう言った。「ここから1人で帰るんだろうな」。全身が動かないのに一人で帰れるはずがなく、送り迎えは母親がしてくれる。なぜ1人で通えないかを説明するが、男性がたたみかけてきた。「親が甘やかしやがって……。1人で通わせろよ」「お前みたいな軟弱障がい者、ろくな人生送れない」。 親をバカにされたようで、怒りが収まらない。親に迷惑をかけている自分にも腹が立ってきた。佐藤さんが、ここで直面したのは「障がい者が健常者に近づこうとする現実」だった。「健常者に近づこうと自分を追い込まなくてもいいじゃないか」と感じた。
体が動かなくても関係がない。「仙拓流」の営業とは
結果、この施設に就職することはやめ、障がい者支援施設に通うかたわら、日本福祉大学(愛知県美浜町)にも通う。働くことを諦めきれない佐藤さんは、2011年5月、その施設で同じ障害を持つ松元拓也さん(26)を誘って共同で「仙拓」を設立することになる。「普通の会社で働こうとしたら、会社は介助者を雇わなければなりません。そうすると気持ち、人の二倍の仕事をしなければなりません。それは重いでしょう?」。 松元さんは「仙拓」の副社長で、ウェブや名刺のデザイン担当。佐藤さんは営業部長のような存在だ。はじめのうちは、身内を頼って名刺を発注してもらう程度だったが、今は違う。ネットを見て、つながりたいなと思った人にはネット経由でコンタクトをとる。体が動かないからその後の商談ができないということはない。来てもらえばいいし、そこまでやらなくてもスカイプでやりとりすればいい。これが「仙拓流」の営業。 体が動くとか、動かないとか関係がない。まぁ、とにかく、熱心にいろんな人とコンタクトをとる。安倍晋三首相や昭恵夫人をはじめ、イタリア料理店「LA BETTOLA (ラ・ベットラ)」 の落合務シェフ、そしてテレビや雑誌、ウェブメディアに声を掛けるPR活動も怠らない。いまはTBSのドキュメンタリー番組の密着取材も受けている。 「障がい者が社長を務めている会社はほかにもありますが、実際は健常者が経営をしていることがあります。『仙拓』は違います。ただ、障がい者が会社をやっているということで有名になって、それだけで仕事が回るほど世の中は甘くはありません」と佐藤さん。