混迷のメッシ移籍問題…最悪のシナリオとは?
クラブOBで前オランダ代表監督のロナルド・クーマン氏を新監督に迎えたバルセロナは、現地時間8月31日に新体制下での練習をスタートさせた。先んじること同30日午前中には所属するすべての選手を対象としたPCR検査を実施したが、メッシは検査会場に姿を現さなかった。 ラ・リーガが定めるプロトコルでは、PCR検査を受けていない選手はクラブのトレーニングに参加できない。これが何を意味するのか。当初は円満な解決を望んでいたとされるメッシが来たる新シーズンにおいて、バルセロナの一員としてプレーする意思がまったくないと伝えたことになる。 しかし、ラ・リーガも同日になって「メッシの契約状況に関して」と題した公式見解を発表。一連の騒動に対して「解約条項に定められた金額が事前に支払われなければ、手続きが実行されることはない」と明言するなど、バルセロナの主張を全面的に支持する側に回った。 メッシ自身はバルセロナがラ・リーガ1部で3連覇を達成し、チャンピオンズリーグも2度制した黄金時代を築いたジョゼップ・グアルディオラ監督が率い、アルゼンチン代表の盟友でもあるFWセルヒオ・アグエロも所属する、英プレミアリーグのマンチェスター・シティへの移籍を希望。すでにグアルディオラ監督と連絡を取り合ったとも報じられている。 しかし、マンチェスター・シティのオーナーを務めている、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ・ユナイテッド・グループの圧倒的な資金力をもってしても7億ユーロもの違約金と、日本円にして50億円とも言われるメッシの年俸を工面するのは非現実的だと言っていい。
スペイン紙の「アス」などは、1億ユーロ(約126億円)に加えて、ブラジル代表FWガブリエル・ジェズス、ポルトガル代表MFベルナルド・シルバ、バルセロナ下部組織出身のDFエリック・ガルシアの3選手をバルセロナへ移籍させるプランをマンチェスター・シティが講じていると報じた。 しかし、バルセロナ側に違約金を減額する意思がなければすべては水泡に帰してしまう。ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長には減額どころかメッシを売却するつもりもなく、ホルヘ氏との話し合いも交渉が途中で途切れたままになっている、契約のさらなる延長に主眼を置いているという。 果たして、ホルヘ氏との話し合いでも妥協点が見出だせなければ、どのような事態が生じるのか。 2014-15シーズンを最後にチャンピオンズリーグ優勝から遠ざかるなど、継続的な強化ビジョンを含めて、現状のバルトメウ会長体制にメッシは不満や苛立ちを募らせてきたとされる。バイエルンに喫した屈辱的な大敗が引き金となったいま、33歳とベテランの域に達した稀代の天才はもう一度ヨーロッパの頂点に立てる可能性を求めて、おそらく一歩も引くつもりはない。 対するバルセロナも譲らないとなれば、今後は双方が弁護士を立てた上で、新型コロナウイルス禍における解約条項の解釈をめぐる法廷闘争にもち込まれるしか解決策はなくなってしまう。移籍市場が閉じる10月5日までに決着が見られなければ、メッシの選択肢は2つに絞られることになる。 バルセロナで最後のシーズンをプレーするか、あるいは契約が終わる来年6月30日まで実質的な“飼い殺し”状態となる道を選ぶか。ブロファックスという極めてビジネス的な手法を取ったことからも、メッシの心は13歳から約20年にわたって所属してきたバルセロナから完全に離れている。 つまり、前者を選ぶ可能性はほとんどないと言っていい。だからといって後者を選べば、バロンドールを歴代最多の6度も受賞し、2019-20シーズンもラ・リーガ1部の得点王を獲得している不世出のスーパースターの選手生命を脅かしかねない、最悪のシナリオに発展する危険性がある。 (文責・藤江直人/スポーツライター)