武藤敬司59歳、引退決断の理由──決め手は主治医の一言だった
ポリシーは曲げないまでも、現状も理解して昔に固執しない。それもこれも世間の空気感にずっとアンテナを張ってきたから可能なのだろう。だからこそサプライズを与え、期待を裏切らない戦いを続けることができた。 「世の中の人はみんな人生どこかで苦労しているし、壁にぶつかっている人も多い。プロレスだって一試合通して、相手にやられる場面って絶対にある。どうやってはい上がるかって、自分に重ねてプロレスを見ている」 プロレス人気が急落したときでも、なくなることはなかった。プロレスの力を実感してきた。プロレスLOVEを貫き通してきた。
来年2月21日の引退試合に込める思い
引退後はノープランだという。決まっているのはトレーニングを続けることだけだ。 「体はボロボロだから生涯かけて癒やしてやりたいとは思ってる。その意味もあってリハビリじゃないけど、トレーニングはやっていかないと。ただ試合があるわけじゃないから、気持ちをキープできるかどうかっていうところもある。時間が余って困ることはないよ。NetflixとかNHKオンデマンドとかおもしれえじゃん。昔の大河ドラマにハマってて、今は松山ケンイチさんの『平清盛』。引退したら、どんな生活になるんだろうな(笑)」
来年2月21日にゴールを設定したマラソンに、ヨレヨレでテープを切るつもりはない。最後までトップを譲らず、駆け抜けて終わるつもりだ。 武藤は言う。 「引退を発表したときに久しぶりに坂口(征二)さんから連絡があった。大谷(翔平)がホームランを打っているのに、スポーツ新聞の1面がオマエの引退だったぞって(笑)。何だろうな、オレの死に際を注目してくれている人って意外に多いんじゃないかって感じてる。幕の引き方なんてそれぞれ。ただ、先輩方の引退試合は意外と記憶にねえんだよ。プロレスラーとして棺桶に入るわけだけど、どうしてこの人がやめていくのっていうくらい素晴らしい試合をやって引きたい」 注目されればされるほど燃える。きっとサプライズをちりばめてくる。 センチメンタルもノスタルジーも要らない。59歳、武藤敬司は今を生きる。 唯一無二の散り際に、刮目せよ。
武藤敬司(むとう・けいじ) 1962年12月23日生まれ。山梨県富士吉田市出身。1984年に新日本プロレスに入門。同年10月にデビュー。蝶野正洋、故・橋本真也と「闘魂三銃士」で90年代をけん引した。海外ではグレート・ムタとしても活躍。2002年に全日本プロレスに移籍し、代表取締役社長に就任。2013年には新団体「WRESTLE-1」を旗揚げ。2021年、プロレスリング・ノアに入団。2023年2月21日に東京ドームで引退試合を開催する。