“塀の向こう”とつながりを 獄中で書かれた川柳など展示 和歌山
「こんにちは はじめましての 満期いつ?」。全国の受刑者が制作した作品を展示する「プリズン・アート展~なぜ犯罪を?考える社会に~」が、和歌山市の県立図書館で開かれている。東京都内で刑務所アート展を開催してきた任意団体「プリズン・アーツ・コネクションズ(PAC)」が所蔵する作品で、更生保護活動を行う和歌山市BBS会によって地方での初展示が実現した。 【写真で見る】「獄中五七五」 ユーモア交えて表現 展示されているのは絵画や書をはじめ、手書きの俳句や川柳、エッセーなど40点。いずれも刑務作業による作品ではなく、受刑者が自由時間を使って創作した。 「獄中五七五」と題された川柳は、受刑者のミサキさん(ペンネーム)が初めての刑務所生活で感じたこと、気付いたことを詠んだものだ。「見て分かる 靴下焼けで 受刑歴」や「コロナより 防ぎたいのは 水虫よ」などとユーモアを交え、17音で表現している。 また、別の受刑者は「母と似た 唯一の部分 字の筆跡」と横書きの便箋にしたためた。母から届いた手紙を読み、自分の字と似ていることに気付きうれしくなった思いを川柳にしたという。 大きくかかる二重の虹に、力強いドラゴンが描かれたカラフルな絵の題名は「あの虹の向こうへ」。作品カードには受刑者の直筆で「社会復帰まであとわずか。私は荒波打つ刑務所から空を見上げる龍。社会という高い高い虹の向こうに翔び立つため力を蓄えている」とつづられている。 刑務所アート展を企画したPACの代表で、奈良県立大地域創造学部講師の風間勇助さんは「受刑者の手書きの文字を見ることで、一人一人が違う存在であることを知ってほしい」と呼び掛ける。風間さんは7年ほど前に東京都内のギャラリーで永山則夫元死刑囚(1997年執行)の直筆ノートを見て、“塀の向こう”からの表現に衝撃を受けた。その後、受刑者の社会復帰支援などにかかわるようになった。 加害者や被害者、その家族や周囲の人が抱える痛みや苦しさは複雑だが、受刑者の作品を展示するのは「さらなる暴力を生まない道を考えるきっかけにしてほしい」との思いからだ。 風間さんは受刑者が表現者の一人として創作活動に励むことで、他者や社会に開いた視点を持つことにつながると考える。会場のアンケート用紙などで集まった作品への感想は受刑者本人に届けており、「塀の外とのつながりを感じてほしい」としている。 和歌山市BBS会の高垣晴夫会長は「公共施設で開催できたことにも意義がある。個人を表現する作品の一つとして、多くの人に見てほしい」と話した。 プリズン・アート展は12月18日まで、午前9時~午後7時(土日祝は午後6時まで)。12月7日午後2~4時には、再犯防止を啓発する映画「フクロウ人形の秘密」の上映会と風間さんらが登壇するトークショーがある。参加無料。【安西李姫】