「新歓で受けた悪質なドッキリ」にげんなり…国立大を1年で休学した男子学生が、東京藝大に通うまで
「自分がやりたいこと」と逆方向に向かってる気が…
アルバイトをしながら予備校に通うことになった2020年、新型コロナウイルス感染症によって世界は混乱した。逆境のなか、3年にわたる浪人生活を泳ぎきり、晴れて東京藝術大学合格を掴んだ。 入学当初の流太さんは将来、制作したものの売り上げで生活する職業作家になりたいと思っていた。実際にコンペに参加したり、展示会を開いて作品を販売するなど、精力的な活動を続けた。しかしながら、作品が高値で買い取られる現実に喜びを感じる一方で、制作の意味について考える機会が多くなったという。 「有名になればなるほど、美術作品がより裕福な人に買われて、それが作家として成長していく契機になると思います。しかし、自分は逆境に臨む大変な人、例えば地域格差だったり、お金がなくて苦しい思いをしている人に向けて創作物を生み出すことが多いんです。当時の状況は、自分がやりたいことと逆方向に向かってる気がして。単に高いお金で買ってもらうことが『本当に幸せなんだろうか』と悩んでしまったんです」
「作家として生きていく」よりも大事なことに気づく
自身が生み出した作品が、世に出たあとにどのような人に買われるか――その度合いは、作家によって当然異なる。流太さんは、誰かのことを思い浮かべながら作品を作ることが多いため、美術に精通した一部の富裕層ではなく、市井の人々に届けたいという思いが強いのだという。 「ある教授が『一枚のすごい皿を作ったとして、それがわかる人にだけわかればいい』と言っていたけど、あまり共感できなかったんです。私はどちらかというと、100均のお皿でもいいから多くの人に届けたいと思うタイプの人間です。もしかすると、やりたいのは職業作家ではないのかもしれないと思い始めました」 現在、学部3年を迎える流太さんは、エンタメ業界を中心に就職活動をしている。個人での制作よりも、企業でクリエイティブ職として勤めることで、自身が手がけたものが多くの人に届くと考えた結論だという。その選択は、アートを諦めたというネガティブな類のものではなく、より建設的な思いから発せられたように感じる。 「『作家として生きていく自信がなかったわけではない』と言えば嘘になるけど、それよりも大事なことがあると思って、選んだ道です」 繊細でありながらも強さを秘めた彼の姿勢は、表現の多様性と内省的な探究心を映し出している。たとえ職業作家の立場でなくても、彼のエッセンスが散りばめられた作品は、多くの人を魅了するに違いない。 <取材・文/えんじてゃ> 【えんじてゃ】 アートとアイドルが好きな大学院生。過酷な幼少期をバネにアイドルプロデュース(アイドル失格)を中心に様々な制作に励んでいる。SNSまとめ
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