「空のFI」日本人パイロット室屋義秀が44歳で挑む壮大な野望!
昨年度は「表彰台(3位以上)」だった目標を「総合V」に格上げした室屋は、それを達成するためのテーマに、まずは「集中力」を上げた。 オフにテレビ局の企画で脳科学者の中野信子氏と対談するなど、ZONE体験の再現を目指す取り組みを始めている。メンタル強化には、以前から福島大学の白石豊教授の指導を受けていて、極限の集中力を手にするためのアイデアは頭にあるという。 「人の脳の50パーセントは違うことを考えている。集中力を高めるには、もう少し正確に自分を知ることが大事。体や心の状態を客観的に見て、どれほど、いろんなものにとらわれているかを知ること」 脳科学で言う、いわゆる「メタ認知」という作業に思えたが、室屋は、「それよりさらに複雑に心の奥底でうごめいているものを見つめる作業」という。室屋にメンタルコントロールの話を聞いていると、何やら心理学者と話しているように難解だが、時速370キロで10Gがかかり、常に恐怖と背中合わせのコックピット内で0コンマの世界で戦うパイロットには、究極の精神力が必要とされるのだろう。 総合Vのために、さらに重要なのはマシンのチェーンアップだが、今季は新たにアメリカのサンディエゴに機体を整備する作業場を持つピーター・コンウェイ氏がテクニシャンとしてチームに加わった。開幕のアブダビ大会の終了後、4月15、16日にアメリカ・サンディエゴで第2回大会があるが、その間を利用して、その作業場に機体を移して大規模な改良を加える計画なのだ。 「全体的にスピードを上げたい。エンジンカバーに改良を加える計画で、冷却効率がアップするので直線でのスピードがさらに増すと思う」 トップチームの主流となっている両翼の端に「ウイングレット」と呼ばれる小さな翼を付ける改造についても、8大会あるコーストラックごとにタイムシミュレーションをして検討している。だが、「ウイングレット」を装着すれば、ターン速度は上がるが、直線では逆に抵抗を受けてタイムは落ちるため「どっちがいいのか五分五分の考え。やると決めたら2週間でできるが」と室屋は迷っている。 また欧州シリーズに備えて、スロベキアにも作業場を確保。シーズン途中での機体整備、改良が可能な体制となったため「シーズンを通じて熟成、加速させたい」と室屋は言う。 大会は全8戦あるが、今季も第3戦目の6月3、4日に母国の千葉大会が3年連続で開催される。 「連覇に注目が集まるが、千葉での優勝はすべてではない。一番にこだわるとトータルでの結果がよくない」と、室屋は冷静に語るが、サンディエゴで予定している機体改造は、その2戦後にある千葉大会に照準を合わせたもの。総合優勝のために「8戦中2戦以上での優勝」をノルマとするならば、そのチャンスは千葉大会でのV2に最大にある。ホームグラウンドには計算外の力も潜んでいるからだ。 「2勝をどこで? と考えると千葉での可能性が高い。コンディション的にも、時差もなく食事も慣れているなど地の利があり、何しろパワーにつながる応援もある。応援に頼りきって技術力が上がるわけではないが、99パーセントは自分の技術でも最後の1パーセントに応援が力になる。奇跡のようなもの。非科学的なものかもしれないが、僕はそれが、実際にあるという瞬間を体感した。母国開催にプレッシャーがないといえば嘘になる。だが、それをプレッシャーではなく、応援と思えばいいだけのこと。そういういろんな条件を考えると、千葉では勝つための条件は揃っている」 千葉大会での奇跡を再びーー。 さらなる野望もある。