北九州で整備が進む「水素・アンモニア拠点」でみた期待と不安 「3兆円補助金」で浮かび上がる燃料活用の現実と課題
北九州市のJR小倉駅から車で25分。高さ124メートルの高塔山の山頂にある高塔山公園に行くと、日本製鉄の九州製鉄所八幡地区(旧八幡製鉄所)の威容が視界に飛び込んできた。その北側に広がるのが109万㎡に及ぶ日本コークス工業の北九州事業所だ。 【地図で見る】日本の各地で「水素・アンモニア燃料拠点」が検討されている 製鉄や非鉄金属の精錬に欠かせない燃料となるコークス(蒸し焼きにした石炭)で、日本コークス工業は国内最大手の生産者。官営三池炭鉱の払い下げを受けて設立された三井鉱山が1970年代にコークス製造事業に進出し、日本コークス工業の源流となった。
北九州事業所では現在4つのコークス炉を構え、年間200万トンの生産能力を持つ。この事業所の一角で、日本初の巨大プロジェクトが動き出そうとしている。 ■「潜在需要家」の企業も参画 2022年2月、北九州市は「北九州市グリーン成長戦略」を策定した。同戦略の下、脱炭素エネルギーを安定的に供給する体制を構築し、その利用拡大を図ることで、市内産業の競争優位性の獲得や成長産業の創出を目指す。 市内の響灘地区では、合計出力22万キロワットの洋上風力発電所の建設、水素やアンモニアの供給拠点の整備が計画された。水素や、水素と窒素を結合させたアンモニアは、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代エネルギーとして注目されている。
翌2023年には県も巻き込んで「福岡県水素拠点化推進協議会」が発足し、国の補助金獲得を視野に「水素拠点の形成と供給網の構築」を目指すことになった。 協議会には九州電力、西部ガス、日本製鉄のほか、ジャパンウェイスト、ジャパンハイドロ、TOTOやブリヂストンなど、水素やアンモニアの潜在需要家が名を連ねる。アンケート調査によると、響灘沿海エリアでは2030年時点で約9万トンの水素需要(アンモニア換算で約50万トン)が見込まれるという。
この潜在需要に対し、水素を製造・供給するための拠点整備を行う。同プロジェクトは伊藤忠商事が全体の取りまとめ役となって、2030年に稼働予定だ。 そのまま燃料として使ったり水素に変換したりできるアンモニアは輸入品を活用する。協議会の一員である九州電力が、双日や日本郵船と連携してインドから年間20万トンの「グリーンアンモニア」(製造時にCO2を排出しないアンモニア)を調達する。 アンモニアは日本コークス工業の北九州事業所内の最大4万トンの新設低温タンク2基に貯蔵する。そこからパイプラインで近隣の需要家に供給するほか、アンモニアを分解するクラッキング装置を併設して水素を製造し、ガスの代替燃料として供給する。