女友達との愉快な人生をずっと続ける方法を描いた作家の小林早代子がR-18文学賞の審査員を務める柚木麻子と語る
読者は5人目の主人公
柚木 これだけ主人公たちが楽しそうだと、物語に疎外感を持ってしまう読者って一定数いると思うんです。だけど、『一生最強』は読んでいる自分も4人のわちゃわちゃに参加している気持ちになれる。それこそ、『フレンズ』の雰囲気をちょっと感じます。 小林 『フレンズ』は、私がルームシェアに憧れるようになったきっかけのひとつです。マンハッタンに住む男女6人の人生模様がコミカルに描かれていく話で、途中組み合わせが変わったりもするんですが、女子2人がルームシェアしている向かいに男子2人が住んでいるんですよね。それ以外のキャラもお互いの家が近いから常に6人でいますけど(笑)。 柚木 6人の日常を見るだけでも楽しいんですけど、あのドラマって視聴者に対して「おまえが7人目だよ!」って巻き込んでくれるようなところがあるじゃないですか。『一生最強』でも読者が5人目になれるところが、大きな共通点だと思います。 小林 私も『フレンズ』大好きなので嬉しいです。 柚木 一方で、『フレンズ』の最後のように「さあ、それぞれの道へ」という展開では終わりませんよね。 小林 はい、敢えてそうじゃない道を目指しました。“続けていく”ということを書きたかったんです。私も実際に仲いい友達はいるけど、一生一緒に暮らせるほどではないし、ルームシェアをした友人も私も、結局普通に結婚しました。現実問題、小説のようにはなかなかできないよなっていう、一歩引いている自分もいて。そういう意味では、ルームシェアを一生やろうとトライし続けていく4人と、それをちょっと冷めた目で眺める視点を最終章で書けてよかったと思っています。 柚木 ラストすごく良かったですよ。小林さん、今後はずっとアメリカにいる予定ですか? 小林 一応、永住権の取得を目指してて、最短で取れるのが2028年なんです。もし取れなかったら日本に戻るか、夫が働けそうな職場のある国に引っ越すか、どうなるかは正直まだ全然わからないです。 柚木 でも、わくわくしますね。アメリカで書く日本語の小説って気になりますもん。 小林 今度はアメリカの風を吹かせられるような小説を書けたら……。 柚木 次回作のご予定はもう決まっているんでしょうか。 小林 女性の性のことは今回気の済むまで書いたので、今度は青春とインターネットみたいなテーマで書きたいなと考えているところです。 柚木 面白そう! どうしてそのテーマを? 小林 中学生ぐらいからインターネット狂いだったので(笑)。Face to Faceの人間関係とは別に、当たり前みたいにオンラインの人間関係が自分の周りにはあったんです。そういうのをひっくるめた青春の悲喜こもごもを書きたいなと。一生懸命、試行錯誤しています。 柚木 いいじゃないですか、青春小説。すごく読みたいです。もう次作が楽しみになってきました。応援しています! *** 柚木麻子(ゆずき・あさこ) 1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『BUTTER』『らんたん』『あいにくあんたのためじゃない』などがある。 小林早代子(こばやし・さよこ) 1992年、埼玉県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2015年「くたばれ地下アイドル」で第14回「女による女のためのR─18文学賞」読者賞を受賞し、同作にてデビュー。『たぶん私たち一生最強』が二作目の単行本となる。 [文]新潮社 1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
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