女友達との愉快な人生をずっと続ける方法を描いた作家の小林早代子がR-18文学賞の審査員を務める柚木麻子と語る
セリフに“真実味”がある
柚木 本作の執筆時から、ずっとアメリカで暮らしてらしたんですか? 小林 いえ、ほぼほぼ日本で書いていて、アメリカの風は一切入ってないですね。この小説は国産100%です(笑)。 柚木 そうなんですね。もちろん、日本の言葉で書いた日本の現状の小説ではあるんですけど、本作にはちょっと新世代の風を感じたんです。それって小林さんのパーソナリティなのか、これまで読んできた本とかの影響なのかなって、思ったりしたんですけど。 小林 そういう意味でいうと、実際に周りの女友達がどんな人生を送ってるのかとか、仕事でどんな目に遭ってるのかとか、直接聞いた話が一番小説に生きてるかなと思います。 柚木 ルームシェアもしていたとお話しされていましたが……。 小林 はい、仲のいい4人組のうちの1人と、2年間一緒に暮らしました。小説で言うと、ちょっと澪っぽい子と、蒲田で。 柚木 途中、4人が「Nintendo Switch」で遊ぶ場面があるじゃないですか。これ、本当に友達とSwitchやっていないと書けない描写だなと感じて。 小林 友達と集まるとSwitchめっちゃやりますね。作中に出てくるスマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)もそうですし、桃鉄(桃太郎電鉄)やポケモンなんかも。 柚木 深夜にアスファルトに寝転ぶシーンがありますが、あれも実際の経験ですか? 小林 若いころ、時々やってましたね。寝転ぶと、肌にアスファルトの跡がつくことを学びました(笑)。 柚木 お酒を飲んではじける描写なんかも、すごく楽しそうでしたね。 小林 私自身がハイボールをめっちゃ飲むんですよ。仲間内で糖質制限が流行った時期があったんです。ハイボールは糖質を気にしなくていいので。 柚木 4人それぞれの個性ももちろん、この4人でしか出せない空気みたいなのが、ゲームしかり、飲み会しかり、色んな場面にちりばめられているように感じられました。 小林 書き始めて最初の頃は、今よりも4人それぞれの個性がなかったんです。一緒にいると均質化していくというか、みんな同じようなことを考えて、同じようなことを喋るようになっていくところってあるじゃないですか。だけど章を追ってくうちに段々とキャラ立ちしていって、最終的には結構いい感じに個性的な4人になったかなと思います。 柚木 編集者さんから、もっと個性を出してというようなリクエストがあったんですか? 小林 それもありますし、2本目からは物語が各キャラクターにフォーカスしていったので、自然とそうなっていきました。 柚木 でも、それがよかったんですね。小説を読むと作者が登場人物に愛情を持っているかってすぐわかるんですけど、『一生最強』はすごく愛情を感じられるところが良いです。 小林 ありがとうございます。 柚木 小林さんの小説にはキラーフレーズが沢山登場しますよね。『くたばれ地下アイドル』に収録された短編の一つ、「寄る辺なくはない私たちの日常にアイドルがあるということ」に出てくる「ジャニーズ、ハロプロ、韓流、宝塚、若手俳優、プロレス、芸人、バンド、声優、二次元、フィギュアスケート、これらの罠が各所に張り巡らされてる現代社会に生きてて、マジでどの神も信じてないの? 無宗教なの?」というセリフが、私、すっごく大好きで。 小林 初めてご挨拶した際、柚木さんが真っ先にこの長台詞を暗唱してくれましたよね。本当にびっくりして……。 柚木 それぐらい覚えちゃう、覚えさせちゃうセリフがいっぱいあるんです。あれって書く中で考えてるのか、普段からああいうことがすっと出るタイプなのか、どちらですか? 小林 友人との会話はヒントになることが多いですね。基本的には、自分でも一回喋ったことがあるようなセリフを書いているかもしれないです。 柚木 小説っぽいセリフというか、こんなセリフ実際にはないよ、みたいな小説がたまにあるじゃないですか。それはそれで面白いから私は好きだったりするんですけど。小林さんの作品では、登場人物がしゃべる言葉にすごく真実味がありますよね。 小林 沢山褒めてもらえて、なんだか元気が出てきました。 柚木 『一生最強』なんて、ゲラで一回読んだだけなのに、百合子の「えっ、この中で、いけない女って私だけ?」とか、亜希の「最高におもしろい子になんてならなくてもいいよ」とか、ずっと頭に残っていて。それは実際のおしゃべりから生まれた言葉だからなんですね。