女友達との愉快な人生をずっと続ける方法を描いた作家の小林早代子がR-18文学賞の審査員を務める柚木麻子と語る
最新プロダクツでつかむ幸せ
柚木 花乃子の漫画もそうですけど、この小説には随所にキレのある小道具が登場しますよね。特に最新のプロダクツを使っているところ、とても尊敬しました。 小林 百合子が抱える性の問題を解決するために4人でセルフプレジャーアイテムを買いに行ったり、亜希がパワポで資料を作って(共同子育てを)プレゼンしたりするシーンのことでしょうか? 書こうと思って書いたというよりは、日常で普通にスマート家電や便利なアプリを使ったりするし、仕事でも当然パワポを使うし、むしろ小説内で存在しないことにする方が不自然かなと思っています。 柚木 文芸の世界では、こういう最新のプロダクツを利用する人間も長らく悪だったんですよ。スマホをずっといじってるようなやつ、最新のコンテンツに飛びつくやつは、絶対に痛い目を見るって書かれてました(笑)。 小林 確かに。スマホすら登場しない体の小説も時々ありますよね。 柚木 あります。だから、ITを駆使して、みんなで集合知を出し合いながら幸せになっていく展開はちょっと目からウロコでした。 小林 そういったところにも注目していただいて嬉しいです。でも柚木さんの小説の方がネットだったりSNSだったりブログだったり、色々と有効に使われていますよね。『あいにくあんたのためじゃない』の「パティオ8」のお話に出てくるZoom会議のシーンがすごく好きでした。 柚木 私、スマホ大好き人間で。だから個人的には、こういった最新機器が文芸に与える影響はプラスだと考えているんです。よく、上の世代が今の若者を批判するときに「電車に乗るとみんなスマホばかりで、出版が不況になるわけだ」なんて言うじゃないですか。でも、昔の人だって、実はそんなにたくさん文字を読んでいたわけではないんじゃないかなと思っていて。 小林 そうなんですか? 柚木 『らんたん』という明治大正昭和時代の小説を書いたときに、当時の生活の史料を色々と調べたんです。この時代の人って手紙をめちゃめちゃ書いてたんですよ。例えば、今さよならって別れて家に帰ったら、さっき別れた人の手紙が速達でもう届いてる、みたいなことが普通にあったそうなんですね。 小林 すごいスピード感ですね。 柚木 現代の私たちからすると手紙って真心でいっぱいで、すごく重大なことが書かれてるって思いがちなんですけど、明治大正昭和の時代を生きた人の手紙を読むと、大体は眠いとか、疲れたとか、あいつ絶対許さないからなとか。会話の延長なんですね。 小林 しょうもない(笑)。 柚木 海を渡った偉人たちの手紙を見たって「あいつむかつく」とか、「それ私も思ってた」みたいなやり取りが交わされていて、これメールやLINEとほぼ変わらないじゃんって思ったんです。 小林 ほんと、そうですね。 柚木 むしろ、昔は特権階級の人しか文字を書けなかったので、一般人のレベルでいうと、今の人のほうが文章は上手なんじゃないかな。