日本には「プロ」がいない 企業をキリッとさせる本物の「経営者」「社外取締役」の本分とは?
■ ESGは見せかけに非ず。利益創造のプロセスこそ社会貢献。 八田 トップが「我が社に限って不祥事なんか起きるはずがない」なんて言う会社に限って、とんでもない事件が起きるものです。企業は生き物ですから、病気もすればケガもする。だから、不正や不祥事が起きることを前提に、内部統制を使ってあらかじめ処方箋を作っておくべきなんです。 斉藤 そういった日本企業の“緩み”の背景にあるのが「終身雇用」という制度でしょう。互いに信用し合い、寄りかかり合う。そのため、優秀でも外国人や女性、あるいはトランスジェンダーの人たちを入れたがらないし、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいたジョブ型雇用にも後ろ向きです。 アメリカは飛び抜けて頭が良くても“悪さ”をする人がいることを前提として、そういう人材に能力を発揮させ、かつ裏切らせないような制度を作っている。簡単に言えば、性悪説、あるいは「悪」とまで言わなくとも、人は時として不正を犯すという性“弱”説が根本にある。 しかし、メンバーシップ型雇用の日本企業にはそうした考えがありません。それでも、激しい国際競争に晒されている昨今、日本企業も外国人を雇わざるを得ない。結果、ジョブ型雇用が整備されていないために、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I、多様な人材を受け入れてその能力を発揮させる考え方)の推進に反するような事件・事故が起きたりする。 八田 トップは監査法人に対して「徹底的にウチのことを調べてくれ」と言わないといけないのに、多くの日本企業経営者の場合、徹底的に監査すると「そんなにウチが信用できないのか」と怒り出すんですよね。そもそも、監査報酬自体、コストだと思われてますし…。
斉藤 厳しく監査してもらうことが、結局、経営者本人を救うことになると思えないところに問題がありますね。 八田 日本人は会議の場を前向きの議論の場と思ってないでしょう。だから、会議で異論を挟まれると、人格を傷つけられたような気になる。それどころか、決議機関の会議なのに決議をとらず、“全会一致”ってことにしちゃう。構成メンバーの数が偶数で、時として多数決が機能しないような会議体も結構あるくらいです。 斉藤 日本社会はよくそれで今までやって来られたな、と痛感する今日この頃です。どんなデータを見ても、現在の日本は国際競争力でどんどん諸外国に追い抜かれているのに、それでも目が覚めない。 「エンタープライズバリュー」(EV)の概念なんて、中国人経営者のほうがはるかに理解していますよ。社外取締役を形だけ入れて、やるべきことをやっているような気になっている場合じゃない。データは戦略を練るための“種”であり、コーポレートガバナンスの基礎になるものです。 八田 「ESG投資は企業利益とは関係ないもの」と考えるのも間違いですね。 斉藤 企業が利益を出すプロセス自体が社会貢献なんだという発想をしないとダメですね。空気をきれいにしながら、自社の利益を最大化する。社会貢献と利益を出すことを分離して考えていてはいけません。 利益を最大化するプロセスの中で、企業が社会のコストを過剰に使ってしまうとか、誰かを犠牲にするということは許されない時代なのです。そして、その企業活動をステークホルダーが見張っていこうというのが、コーポレートガバナンスです。 八田 ガバナンスの議論は不断に続けられなければなりません。そのような意味でも、また斉藤さんのお話をじっくり拝聴する機会をいただきたいですね。本日はありがとうございました。
八田 進二