「ひとりカラオケ」の秘密 歌唱データが明かすリピートの熱量と年齢を超えた共通曲
消齢化からみるひとりカラオケ
筆者は年齢層による価値観の違いが小さくなる「消齢化」の共同研究として、JOYSOUNDの歌唱データを用いて行った「全年齢層で歌われる曲」の時系列分析を行っています。その結果からは「全年齢層で歌われる曲」がこの10年で4曲から20曲に増加していることがわかっています。また直近のデータを分析すると、今回のひとりカラオケユーザーの分析でも挙がってきた「アイドル」と「ハナミズキ」は、ともに「全年齢層で歌われる曲」に入っています。 今回のひとりカラオケを対象にしたデータ分析からも、同じ年齢層という似た者同士だけでなく、年齢層の異なるユーザーと、最近のヒット曲だけでなくちょっと意外な曲も共通して歌っているケースが多数確認できました。 普段私たちは「ミレニアル世代」や「Z世代」といった枠組みで生活者を分類します。加えてスマートフォンやSNSの普及を背景に、多様化した情報環境の中で「生活者は、世代や個人ごとに異なる世界をみているのである」と考えがちです。 確かにそのような面はあると思われますが、今回のひとりカラオケのデータからは、個人によってバラバラの情報源に接しているような情報環境だからこそ、年代を問わず共通して歌われている多数の曲の存在が浮かび上がります。 敢えてひとりでカラオケに行く生活者の中に、「自分の歌う曲があまり人と合わないのではないか」と思っている人がいたとしても、同じ年齢層の人はもちろん、異なる性別や年齢層の人とも、一緒に盛り上がることができる可能性があることを今回のデータは示しています。
誰かとハモれると楽しい?
ちなみに、ひとりカラオケのような「ひとりで好きな曲に没入する」という行動とは逆に、「同じ曲が好きな人同士で一緒に楽しむための行動」も生まれています。 次に挙げるグラフは、動画共有サイトでタイトルに「ハモリチャレンジ」を含んで投稿された動画とその視聴回数を視覚化したものです。 「ハモリチャレンジ」動画は、動画投稿者が歌っている曲のハモリを、視聴者が一緒に歌うことにチャレンジするものです。まず動画投稿者がハモリの手本を歌います。次に視聴者は、動画投稿者が歌う旋律に合わせて、主旋律やハモリパートを歌います。つられずにうまく歌えると、視聴者は達成感を得ることができます。 そんな「ハモリチャレンジ」動画は、ご覧のように、2021年以前はほとんど存在していなかったのが、2022年後半から急増していることがわかります。ピーク時の2022年12月(12月はカラオケのハイシーズンでもあります)には、1カ月に202本もの動画が投稿されています。2023年夏以降は一旦落ち着きますが、2024年に入って再び増えてきているようです。 ちなみにこの中で最も視聴されている動画は、先程10代女性と40代男性の共通歌唱曲としても登場したポルノグラフィティさん「サウダージ」の、サビを取り上げたハモリチャレンジ動画でした。 ひとりカラオケではなくグループでカラオケに行った際、歌いたい曲が被ってしまったとしても、「ハモリチャレンジ」でハモリパートを歌い込んでおけば、曲の取り合いにならず一緒に楽しめるということもありそうです。