「就活に親が参戦」は当たり前?◆広がるオヤカク、正しい距離感とは【時事ドットコム取材班】#令和の親#令和の子
就職活動での親の存在感が高まっている。就職情報会社の2023年度の調査によると、企業が内定学生の親に入社の意向を確認する「オヤカク」の連絡を受けた親が半数を超えたことが分かった。大学でも親向けの就活説明会や個別相談会を開く動きが広がっている。学生が就職先を決めるための活動に、なぜ親が参戦するようになったのか、背景を探った。(時事ドットコム編集部 川村碧) 【ひと目で分かる】「オヤカク」データ ◇採用には「親の納得も必要」 商品買取・販売会社のバイセルテクノロジーズ(新宿区)は2021年入社の学生の採用選考から「オヤカク」を正式に取り入れた。会社を知らない親から不安の声が寄せられたり、親の反対で学生が内定を辞退したりしたケースがあったといい、採用担当の小泉俊一さんは「一緒に働きたいと思っていた人材に内定後に辞退されるダメージは大きい。学生だけでなく保護者も納得しないと採用が難しい時代となり、不安を事前に解消しよう、という考えが生まれた」と説明する。 実際の流れとしては、内定を通知する時に学生に「保護者の方は弊社をどう思っていますか?」などと尋ね、親の反応を確認。疑問点や悩みがあれば詳しく話を聞き、親に会社のパンフレットを送ったり、担当者が電話で話したりして不安を取り除いている。残業の有無や諸手当の仕組みなどを心配する声が多く、たいていは会社側の説明で納得してもらえるという。 24年卒の採用では約240人全員に対し、9人の担当者が分担してオヤカクを実施。学生に加え、親にも目を配ることは負担にも思えるが、小泉さんは「学生の今後の人生を一部預かると考えれば、企業として保護者への説明義務がある。学生も保護者も安心した状態で入社を決めてもらうのがベストで、長期的に見れば早期離職も防げると思う」と語った。 ◇「オヤカク」、半数が経験 就職情報会社マイナビが24年1月に実施した「2023年度就職活動に対する保護者の意識調査」によると、子どもが内定をもらった親851人のうち、企業から「内定確認の連絡」を受けた割合は52.4%で、初めて半数を超えた。オヤカクについて調査を開始した18年度の17.7%から大幅に増加した。子どもの内定した企業に反対したことがあるかを尋ねた項目では、「ない」が96.1%、「ある」が3.9%との結果で、子どもの決めた就職先を受け入れる親が大半のようだ。 一方、24年卒内定者意識調査で、内定先に関する意思決定の際、誰かの助言や意見を聞いたかを学生に複数回答で尋ねたところ、「父親・母親」が61.9%で最も高く、「友人(学校内)」の23.9%、「誰の意見も聞かなかった」の21.5%が続いた。マイナビの担当者は「学生の意思決定への保護者の影響は大きいと言え、こうした背景から内定学生の親に同意の確認を行う企業が増えていると考えられる」と分析している。 ◇親向け説明会は大盛況 親側の就活への関心も高いようだ。6月上旬の週末、大妻女子大(千代田区)で開かれた親向けの就活説明会には650人以上が集まり、夫婦そろって参加する姿もあった。同大の就活支援担当者らがスケジュールや子どもの就活に向き合う心得などを説明すると、熱心にメモを取りながら耳を傾けていた。 「こんなに参加者がいるとは思わなかった」と驚いた様子の50代女性。「バブル時代に就活した自分とは状況が違うので、娘に間違ったアドバイスをしたくないと思って参加した。就活は本人が主体で、あまり親が出過ぎないようにしたいが、一人っ子なので本心は心配」と話す。 40代の女性に子どもの就活への関わり方について尋ねると、「普段から娘と積極的に会話してどういう会社が良いのか、一緒に考えていきたい」と語った。同席していた大学3年生の娘は、「悩みは親に話して意見をもらいたい。自分の決めた会社は親にも納得してほしいと思っている」と話した。 参加者の中には複雑な思いを抱く人も。甲府市から来た40代男性は「就活情報を入手できるのはありがたいが、大学でも親向けの説明会があるなんて過保護になったなと感じる」と苦笑いしていた。