「この中の誰かが漏らしたことになる」30万円入りの封筒を両親に押しつけ土下座 性被害「もみ消し」に映る対応 バトンコーチ性暴力問題
息子(19)の性暴力被害を訴えた両親の前に、日本バトン協会の女性理事長(当時)と、チームの男性責任者がいた。両者はそろって土下座すると、容疑者(40)から預かってきたという現金30万円入りの封筒を両親に押しつけ、こう申し向けた。「このことを知っているのは私たちだけ。他の人が知ったなら、この中の誰かが漏らしたことになる」 【写真】現在の内田圭子理事長
バトントワリングのチームで、コーチの容疑者が教え子に性暴力を加えていたとされる事件。息子の被害を知った両親は昨年3月、バトン競技を統括する同協会にメールで複数回にわたり、被害を訴えた。程なくして先方から指定された京都市内の貸し会議室を訪れると、冒頭のやりとりが繰り広げられた。両親には「もみ消し」にしか映らなかった。現金はもちろん突き返した。
何よりも被害の真相解明、心からの謝罪を求めての訴えだったが、望みは打ち砕かれた。やがて容疑者がチームを離れると、理事長とチーム責任者は「辞めた人のことは関係ない」と応じなくなった。
「先生に戻ってほしい」声に両親や息子は
対応の遅れは、被害者をさらに傷つけた。息子と容疑者の関係について「付き合っていた」「行為は同意の上だった」などと、事実無根のうわさを周囲で耳にした。真相を知るよしもない他の保護者からは「先生に戻ってほしい」との声も上がり、両親や息子はいたたまれない思いを抱え続けた。
このままでは被害が闇に葬られてしまう…。両親は昨年6月、業を煮やして協会宛てに告発文を提出した。すると協会の理事会が問題を把握することになり、翌月、弁護士3人でつくる外部調査委員会が立ち上がった。調査委は昨年12月、一連の性暴力被害をまとめた報告書を公表。理事長とチーム責任者のこれまでの対応を厳しく非難し、協会側も両者について、会員資格を停止する処分を下した。
「神のような存在」
当初の協会の対応の在り方について、バトントワリング界のある関係者は、国際大会で数々の実績を誇るチーム責任者が、国内で「神のような存在」と称されるほど実力を有していたと指摘した上で、「協会もこのチームには口出しできなかったのだろう」と話す。息子の父親は「協会がもっと早く動いていれば、ここまで苦しまずに済んだ。ハラスメントがあれば、迅速に対処できる組織に変わらないと、誰も安心して競技ができない」と訴える。