「ひとりカラオケ」の秘密 歌唱データが明かすリピートの熱量と年齢を超えた共通曲
どんな曲が何回歌われている?
そこで気になるのが、「みんなどんな曲を、何回くらい歌っているのだろうか?」ということです。この実態を把握するため、今回の対象ユーザー群の、10歳刻みの各性別/年齢層ごとに、「最も繰り返し同じ曲を歌っている人」を抽出して、どんな楽曲を何回歌っているのかを視覚化してみたいと思います。まずは男性からです。 ご覧のように、どの年齢層から抽出した人も、同じ曲を2回……どころかもっと繰り返し歌っていることがわかります。左から3番目の30代男性の方は、accessさんの「瞳ノ翼」(2007年)を、1カ月間のカラオケで実に24回歌っているようです。 次に女性をみてみましょう。 これもまたどの年齢層の人も、思い思いの曲を繰り返し歌っていることがみてとれます。たとえば中央の40代女性の方は、2017年デビューの女性アイドルグループ、ナナランドさんの曲でアニメーション作品のエンディング曲にもなっている「七色の絵の具で」(2023年)を14回歌っています。
曲の難易度とひとりカラオケ
また目を引くのは、10代女性、20代女性、30代女性の3人が、いずれもYOASOBIさんの「アイドル」(2023年)を複数回歌っている点です。今回の歌唱データの対象期間は2023年5月なので、同曲リリースの同年4月から1カ月ほどで、既に複数の年齢層で何度も歌われるような曲となっているということになります。そして同曲を5回歌っている30代女性の方は、一青窈さん「ハナミズキ」(2004年)も5回歌っています。1カ月前の曲でも19年前の曲でも、好きになった曲をよりうまく歌えるように、ひとりで何度も歌い込んで、高得点を目指したりしているのかもしれません。それぞれの生活者の、歌に対する思い入れの強さが感じられて、ちょっと胸が熱くなってしまいます。
ひとりカラオケユーザー同士で、同じ曲を歌っている相手はどれくらいいる?
ひとりカラオケのデータ分析からは、多くの人が「同じ曲を何度も歌っている」ということがわかってきました。その歌唱行動は当然、別々の場所で別々の時間に、ある意味で孤独に行われています。そんな孤独なひとりカラオケは、冒頭で紹介した生活者の声にあったように実際に他人との共有が難しいのでしょうか。本当に難しければ、ひとりカラオケユーザーが歌っている曲はみんなバラバラ、ということになります。もし一緒にカラオケに行ったとしても、お互い知らない曲を披露しあう会になりそうです。 そこで「ひとりカラオケユーザー同士が、同じ曲を歌っている相手はどれくらいいるのか? いるならどんな曲が共通して歌われているのか?」という観点からデータを可視化してみましょう。まず、今回分析対象としたユーザーの中で「歌唱曲が他のユーザーと1曲以上共通しているユーザー」は360人中、354名存在し、実に98.3%が該当しました。ほとんどの人が、誰かしらと同じ曲を歌っているということになります。 また「他のユーザーと1曲以上の曲を共通して歌っているユーザー同士が、平均して何曲を共通して歌っているか」を算出すると、2.7曲を共通して歌っていました。二人でカラオケに行ったら、「あ、この曲私も歌える! いいよね」というような瞬間が3回前後は訪れるということですね。 ではそうした共通曲は誰と誰の間に生まれているのでしょう。年齢の近いユーザー同士でしょうか? それとも年齢が離れたユーザー間にも存在するのでしょうか? この実態を視覚的に明らかにするために、コードダイアグラムを使ってみましょう。データの関係性を円形に表現するもので、異なる項目間のつながりを視覚的に理解するのに役立つ手法です。 今回対象としている360人のひとりカラオケユーザーにおける、各30人の性年齢層から、(可読性を考慮し)共通曲が多いユーザーを最大3人ずつ抽出し、10代から時計回りに車座のように並べます。そのうえで、歌唱曲が共通している人同士を曲単位で線(コード)で結ぶと「年齢を超えて同じ曲を歌うユーザーの存在が、多いのか少ないのか」が明らかになるのです。