【解説】コメ異例の品薄に価格1.85倍も それでも「やっと生産可能な額」 関係者たちのホンネ
「今回のことはかえって良かった可能性もあると思うよ」 コメの品薄から始まり新米価格が大幅に上昇する中で、生産者から実際に聞かれた言葉です。 一部スーパーなどで棚にコメが並ばない状態や、購入制限がかけられる「異常な事態」が全国各地で見受けられたコメの品薄問題。一部店舗では新米の入荷が始まるなど解消に向けた動きも見えてきていますが、今度は店頭価格が「昨年の1.5倍だ」という声が小売り業者から聞こえてくるなど「新米価格の引き上げ」がどうなるのか関心が集まっています。 全国各地にあるJAが、農家から新米を買い取る際の目安となる「概算金」が先月末までに全国で出そろいました。新潟や北海道など、主要産地で去年より2割~4割ほど高い水準となっています。 そんな中で、生産者がこぼした「今回のことはかえって良かった可能性もあると思うよ」という発言。どんな思いで口にしたのか?今回、広く世間の関心を集めることとなった「コメの品薄」と「コメの価格」。取材を進めていくと、この「異常事態」にコメに関わる当事者たちが感じた「意外なホンネ」が見えてきました。
◆生産者のホンネ「ようやく再生産可能な価格に」
都心よりも1~2度気温が低く感じられる千葉県にあるコメの一大収穫地。次々と袋詰めされていく新米を前に、ある生産者は今も続く品薄状態に対してこう語ります。 「不思議だよね、どこいっちゃったんだろう。こんなにコメあるのに」。今年の新米はすでに800俵、480トンほど出荷済みで、収穫は3分の2ほど終えた状態だと言います。いまの店頭での品薄状態に関しては、収穫は例年と変わらず順調なので、あとは流通の問題なのではないかと話しました。では、その出荷した新米を卸や小売が買い取った価格は、例年と比べてどれくらい上がっているか尋ねると「7割(上がっている)」という驚きの答えが。全国各地にあるJAが、農家から新米を買い取る際に支払う価格の目安となる「概算金」。先月末に北海道が決定し、全国の主要産地の「概算金」が出そろいました。今年は各銘柄で、前年に比べて2割から4割程度の引き上げとなりましたが、その引き上げ率を大きく上回る価格の設定が、生産者と卸売り業者・小売り業者の間で行われていることがわかります。 「“農協の概算金”っていうのはあくまでも目安の前渡し金だから。今の実情の価格から言うと、市場での買取価格は(品薄の実情を)反映してるわけだから、それはもう全然違うんだよ」。 特にコシヒカリの場合、(価格がやや上がった昨年ではなく)一昨年と比較すると、1俵1万3500円だったところが、今年は2万5000円。8割以上(1.85倍)、上がっていると言います。 この価格上昇について生産者は、「小売り業者や卸売り業者は仕入れ額が下手すると倍いるのだから大変だろう」と心配しつつも、生産者としては「ようやく生産コストの上昇分を価格に反映することができた」という「ホンネ」も漏らします。 「例えばコンバイン(収穫機)が一昨年までだったら1600万円で買えたのが今は2000万円なんで、プラス400万円+消費税ですから、たまったもんじゃない。設備投資が価格転嫁できないでいるのが現状なんで」「企業もちゃんと、そういうことを踏まえた値づけをしていただきたい。そうでないと生産者がいなくなっちゃう」 日本ではデフレが長期化したことで、安いことが食料品の大きなアピールポイントとなり、生産コストが上昇しても販売価格に転嫁しにくい状況があると言われています。複数の生産者やJA関係者からも、特にコメは「今まで生産コストの上昇を価格に反映できない状態が続いていた」という声があちこちから聞こえてきました。総務省が公開している消費者物価指数を見ても、2020年度を100とした場合、パンは121.3、めん類は120.3に対してコメ類は106.7と、6月末時点では上昇率が大きく下回ることがわかります。 こうした背景から、帝国データバンクが今月5日に発表したデータによると、今年の1月から8月に発生した「コメ農家の倒産件数」は34件で、初の年間40件台到達も想定される苦しい状況です。そのため、今年の新米価格でようやく、生産者がコメ作りを続けていけるだけの収入につながる価格になった、再生産可能な価格になった、という「ホンネ」もあるのです。 では、生産者からコメを集荷するJAは今回の品薄騒ぎと新米の価格をどう受け止めているのでしょうか?