デジタル化で2024年問題を乗り越える! 1年で総労働時間約20%減を実現した、新雪運輸の働きやすさ改革
「2024年問題」を解決するには、腹をくくるしかないと決断
――2024年4月からドライバーの時間外労働の上限が275時間になった「2024年問題」ですね。貴社では2024年問題をどう受け止め、どのような対策を行ってきましたか。 業界内では、数年前から時間外労働の上限規制が設けられるようだとの話が聞かれていました。293時間でもかなり厳しいと感じていただけに、「これは大変だ」というのが正直な気持ちでした。 代表とは「もう、腹をくくるしかない」と話し、できない仕事や採算が合わない仕事は断るようにしています。ただ、「この業務はお断りさせてください」と申し出てもすぐには止められません。撤退するまで、ほとんどのお客さまは3ヵ月ほど、長いお客さまだと1年ほど掛かっています。こうした業務整理と並行して、これまでに培ったドライバー業務効率化のノウハウを活用し、地道に労働時間の削減を続けています。これまでにさまざまな長時間労働に対応し、改善パターンがある程度絞られているので、顧客に改善プランを提案し、協力いただいています。効率良く稼げるロールモデルを一つでも多くつくっていかなければなりません。 社内に対しては、インナーブランディングが重要だと考えています。働き方改革を評価していただいたので、取材など外部への情報発信をする機会は増えたのですが、社内への情報発信はあともう一歩だと感じています。今後、大きな課題になると思っているので、何らかの施策を展開していきたいですね。
ボトムアップの職場環境改善を推進する「向上委員会」
――業務時間削減のほか、従業員が集まり、職場環境を改善するために意見を出し合う「向上委員会」を立ち上げています。どのような狙いがあったのでしょうか。 社内のコミュニケーションを促進したいという思いがありました。ドライバーは基本的に一人で運転し、荷物を運搬しているので、同僚と雑談する機会は多くありません。時には悩みを一人で抱えてしまうこともあると思います。当社は埼玉県を本社として、東京都、千葉県、神奈川県に拠点がありますが、営業所が変わると、全くの別会社に思えるほどの心理的な距離感がありました。また、当社は24時間365日稼働しているので、社内の交流イベントが開催しづらいという事情もありました。 当社と同規模の食品物流企業だった前職では、管理職を一切入れない委員会活動を積極的に展開し、社内が活性化していました。これを当社にも取り入れて、従業員主体でイベントを企画する委員会を立ち上げたのが2017年2月です。集まったメンバーで「向上委員会」という名称を決め、今ではレクリエーションに限らず、組織にまつわる改善案を会社に提案したり、自宅送付型の社内報『Shinsetsu通信』を発行したりと活発に活動しています。 ――これまでどのような意見が聞かれましたか。また、実際に改善された事例があればお聞かせください。 当初はレクリエーション企画を中心に議論していましたが、委員の関係性ができてくると仕事の進め方などに関する話もおのずと出て来ました。といっても、最初は愚痴や文句のオンパレードです。それでも話し合いを続けていくと、徐々に改善のヒントや提案が出るようになっていったのです。「もっと働きやすくするため、自分たちが主役になって会社の制度や職場環境をどう変えていくのか」という意識を持って委員会を推進してくれています。 これまでに実現したのは、雨天や冷凍庫の中での荷物運搬に役立つパーカーの制服や、月経などの事情に配慮した女性向けの制服の導入、先輩社員交流会、オンライン女子会などです。いずれも、現場で働く従業員ならではのアイデアや声が基点になっています。本部にいる男性だと、なかなか気づかないことばかりだったので、われわれにとっても有益でした。こうした現場の働きづらさを一つひとつ解決していくという意味でも、「向上委員会」の活動は本当に意義があると思っています。 ――自宅送付型社内報「Shinsetsu通信」には、どのような狙いがあったのですか。 2020年に当社のスローガンを「コンプライアンスと働き方改革の達成でCS・ES・FSの実現を目指そう」と改めました。CSは顧客満足、ESは従業員満足、そこに家族満足を意味するFSを加えたのです。 その上で「向上委員会」の活動の一環として、社内報を年に1、2回のペースで企画・作成し、従業員の自宅に送っています。会社での取り組みや福利厚生などを、従業員のご家族に確実に届けようという狙いがあります。福利厚生の利用率を上げたいという課題が出発点になっています。例えば、「高級ミニバン無料レンタル制度」を社内報で紹介したら、利用率が一気に高まりました。労災の上乗せ補償のほか、プライベートの病気やケガにも補償のある業務災害総合保険への加入を取り上げた際は、従業員のご家族から感謝の言葉が寄せられました。