新型ホンダ・フリードの進化は乗れば納得だった! ちょうどいいサイズ感を守り抜いた最新ミニバンに迫る!
カタログ性能より実用性能
クロスターの1.5リッター・ガソリンは、旧型の直噴からポート噴射(PI=ポート・インジェクション)に変更されている。最高出力は131psから118psに、最大トルクは155Nmから142Nmへと、数値的には小さくなっているものの、燃費も含めて実用域では遜色ない。ポート噴射のメリットは直噴より静粛性と軽いことにある。というのがホンダの判断で、使い勝手を重視してアイドリング・ストップを廃止してもいる。カタログ性能より実用性能……と、聞くだけで、おとなの判断であると感じる。 乗ってみると、アトキンソン・サイクルではないこともあって、エンジンがより気持ちよく回る。音もe:HEV用よりエンジンらしい。CVTには最近のホンダ車同様、ステップアップ/ステップダウン制御というのが入っていて、加速時には有段技やのごとく、ぶううううんっとまわって加速し、一息ついてから再加速する。e:HEVから乗り換え直後、動きが軽快に感じたのは、ノーズが軽くて車重も軽く、脚の動きも軽やかだから、なのだろう。 開発陣とのQ&Aのおり、旧型もよかった、という感想は筆者だけではなかったことがわかって、ちょっと安心した。それから、こんな発言が出た。 「現行でいいじゃないですか、と、いわれるんですけど、それをわざわざ買い直してもらうためにはなにをやらなければならないのか、というのが僕らのスタートなんです」 一番守って欲しいのは、ちょうどいいサイズ感。リクエストとして、快適性、室内が暑い。サード・シートが使いにくく、たとえばシートの上げ下げが重くて、普段、使わないとき(収納時)は邪魔になる。という声があったという。動力性能や運動性能に関しては、問題視するユーザーではないけれど、e:HEVに変えて新たな価値を提案することは決めていた。さらにADAS(運転支援システム)では、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を0km/hでも使える最新仕様にアップデートしている。ブレーキを足踏み式から電気式に変更したのはその対応のためでもある。経験を積んだプラットフォームの地道な改良とe:HEV搭載の相乗効果だ。 最後になったけれど、8年ぶりに生まれ変わったフリードには大別して、新たにエアと命名された標準型と、先代の途中で追加されたクロスオーバー仕立てのクロスターがある。ということを確認しておく。 エアはこれまで通り、ちょうどいいサイズの全幅1695mm。クロスターは前後フェンダーまわりに樹脂製のプロテクターをつけることでアウトドア風味を強調した結果、全幅1720mmに成長している。エアは3列シート、クロスターには2列シートで、その分広い荷室の仕様もある。 パワー・ユニットは2モーターのe:HEVと、1.5リッター直4DOHCの2本立て。駆動方式は4WDもあるけれど、今回の事前試乗会では用意がなかった。室内の暑さ対策で、リヤにエアコンを装備するのはこのクラス初。最大のライバル、トヨタ「シエンタ」の後席にはリサーキュレーション、つまり扇風機はあるものの、冷たい空気は出ない。 もしも筆者に、ホンダのディーラーに勤める甥だか姪だかがいて、「おじさん、なんか買って」と、頼まれたら、「よおしっ」と、新型フリードを注文してもいいかもしれない……。実際はそういう甥も姪もいないので、あ~、買わなくて済んでよかった。という話ではなくて、クロスターのガソリンを試乗中、これの2列シートとかいいかも、と、思ったのは本当である。
文・今尾直樹 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)