「 MY G-SHOCK 」が生み出した情緒的な価値。顧客一人ひとりと向き合う姿勢で新たな購入層を創出
新たな層のリーチを獲得
DD:伝統的なシリーズや商品があるなかで、「MY G-SHOCK」は社内でどのようなポジションになるのでしょうか? 阿部:プロモーションの方法やリーチするお客様の層など、本流のG-SHOCKでは進めづらい部分をカバーしていくようなポジションと言えます。「MY G-SHOCK」での反応を本流のG-SHOCKに生かしていくという役割もありますね。 DD:マーケティング視点では、どのような効果を得ましたか? 阿部:G-SHOCKというブランドが新しい層にリーチできたこと、これに尽きます。 たとえば、カシオのECサイトでの主な購入者やサイトの訪問者は40代男性がメインですが、「MY G-SHOCK」は20代、30代のユーザーが多い傾向にあります。G-SHOCKの場合、高額ラインからユースモデルまでの全体で見ると20代、30代のユーザーは全体の3割程度ですが、「MY G-SHOCK」は全体の5割程度に達しています。 加えて、「MY G-SHOCK」は女性の購入者が多いことも特徴です。G-SHOCKの場合、ユニセックスな商品ではあるものの女性の購入者は全体の2割程度ですが、MY G-SHOCKは4割程度と、約2倍の差があります。
生み出したのは「推しを身近に感じていられる」という情緒的な価値
DD:もともとターゲットとして女性や若年層を意識していたのでしょうか? 阿部:いえ、開発時に想定はしていませんでした。というのも、G-SHOCKのコアなファンは中年層が中心と想定していますから。そのため、「MY G-SHOCK」も立ち上げ当初はG-SHOCKを主語にして売り出したことで、30~40代の男性の利用が多かったと思います。 しかしながら、女優の橋本愛さんと「MY G-SHOCK」がコラボしたとき、彼女が作ったものに共感してくれる人がそのまま同じカスタマイズのものを買ってくれたり、一方で自分の推し(アイドルやキャラクターなど)のイメージにあわせたものを作ってSNS上で発信してくれたりしたユーザーが現れたことから、利用者層に変化が出てきました。 このときに、「カスタマイズできることで想いを込められる『MY G-SHOCK』は、年齢層が若くブランド関与も低いターゲットにも届けられる」と確信しました。そこから、プロモーションの方向性を転換することにしたんです。 DD:方向性を変えてからは、どのような施策を試みたのでしょうか? 阿部:ひとつの切り口として、2022年にVTuberグループ「にじさんじ」に所属する葛葉(くずは)さんと叶(かなえ)さんというVTuberとコラボをしました。お二人が「MY G-SHOCK」を使ってカスタマイズするという配信を行い、その直後から作ったものを購入できるようにしたんです。 自分なりの想いを込めたG-SHOCKを作れること、推しとお揃いのG-SHOCKを身につけられることを押し出した結果、大きな手応えを感じることができました。 DD:これまで想定していたファン層とは別の層からも反響があったということですよね。 阿部:はい。とくに20代後半の女性からの反響が大きく、カシオ会員の登録率も伸びました。普段時計をしない人でも時計を買う新しい理由が生まれた。つまり、モノの提供価値ではなく、推しを身近に感じていられるという情緒的な価値を提供できたんです。