「ほったらかし快老術」著者の90歳現役医師が提言「高齢者こそ生きがいを持とう」
社会活動が生きがいにつながっていることを示す調査結果もある。内閣府「令和5年度高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)」では、直近1年間に何らかの活動に参加した65歳以上の人は、いずれの活動にも参加しなかった人に比べ、生きがいを感じている割合が高かった。 私は、老いとともに生きる上では、この「生きがい」というものが欠かせないと考えている。ここから、健康長寿になぜ「生きがい」が重要なのかということを説明したい。 ■高齢者ほど「生きがい」を持ったほうがいい理由 高齢者は、さまざまな原因によってストレスにさらされることが多い。それは例えば、ライフステージごとに繰り返される喪失体験や、医療的、経済的な不安、自身の存在価値が失われる怖さなど、多岐にわたる。さらに、ストレスからうつ症状や被害妄想、心気症などが起こりやすくなるという特徴もある。心気症とは、検査をしても医学的に異常がみられないものの、ちょっとした心身の不調を過度に心配して病気だと訴えることだ。 そう考えると、幸福感を抱くこと、自信を得ることが難しいことのように思えてしまうが、日々のちょっとした楽しみがあれば、心の持ちようも生活も変わる。高齢者こそ、楽しみや好きなこと、つまりは「生きがい」を持つことが必要だと思うのである。 私が毎日仕事に出かけるときに、マンションの外で会うおばあさんがいる。おばあさんは毎日朝晩2回、野良猫にエサをやっている。雨の日も風の日も、毎日欠かさずやっているので、ある日私が「大変ですね」と話しかけると、「これが私の生きがいなんです」と言うのだ。とても驚いた。でも、そういうことだと気づいた。野良猫はおばあさんにエサをもらえると思って、朝晩やってくる。おばあさんを待っているわけだ。おばあさんにとっては、猫のためにエサをやるという毎日のその営みこそが「生きがい」であり、人生の励みになっているのだ。 (後編に続く)
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋 ≪著者プロフィール≫ 折茂肇(おりも・はじめ) 公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
折茂肇