雷雨順延は全米女子OP初V狙う渋野日向子にどんな影響を与えるのか?「美味しいパンで気分転換」
5番ホールを終えて5オーバーとスコアをひとつ落とし、32位タイに後退していた笹生優花(19、扶桑カントリー倶楽部)を含めて、決勝ラウンドに臨んでいる9人の日本人選手のうち7人がすでにスタート。渋野と三ヶ島かな(24、ランテック)の2人が、月曜日に18ホールを回ることになった。 予期せぬ形で得た休養は、渋野にどのような影響をもたらすのか。単独首位こそキープしたものの、2日目の7アンダーからスコアを3つ落とした3日目。渋野はバックナインのうちショートホールを除いた7ホールで、実に6度にわたって狙い通りのセカンドショットを打てていない。 まずはパーオンを目指していく上で、7ホールのなかで実際にパーオンに成功したのは13番のロングホール(502ヤード)だけという状況では、バーディーを狙えるチャンスは生まれにくい。自分でも納得がいかなかったからか。3日目をホールアウトし、海外メディアを含めた取材を終えた後は日が暮れてもただ一人、ドライビングレンジで黙々と練習に打ち込む渋野の姿があった。 2日目までの好スコアを支えた、セカンドショットの正確性が失われ気味になっているのはなぜなのか。ひとつは400ヤードを超えるミドルホールがほとんどを占める、女子選手にとっては長く、タフなサイプレイスクリークコースを初日、3日目と回ってきたなかで蓄積された肉体的な疲労がある。 実際に渋野のスイングの土台をなす下半身の粘りがなくなってきたことが、セカンドショットでも長い距離を残すサイプレイスクリークコースで、ユーティリティーや5番アイアンが特に左に外れるミスを多く招いた。その意味でもスタートせずに帰路に着いたことは、図らずもいい休養になった。
メンタル的な疲労も蓄積されているだろう。3日目を終えた後に「意識しないようにしても、ずっと緊張していました」と第一声を残したように、ただでさえ注目されるメジャーの舞台で首位に立っていることで、渋野が感じているプレッシャーは想像を絶するものがあるはずだ。 昨夏の全英オープン覇者という肩書きを常に背負うだけではない。全米女子オープンに限れば1987年大会の岡本綾子以来、実に33年ぶりに首位に立って最終ラウンドを迎える日本人選手になった。当時も2位と1打差で、最終的に岡本はプレーオフで涙を飲んでいる。 渋野には大会史上で5人目となる、初出場初優勝の偉業もかかってくる。直近では2015年大会のチョン・インジ(韓国)以来となり、昨夏の全英女子オープンも初出場だった渋野は女子ゴルフの長い歴史でも過去に3人しかいない、初出場でメジャータイトルを2つ射止める可能性も残す。 さまざまなプレッシャーから一時的に解き放たれる意味でも、順延決定までの“女子トーク”や午後の時間をのんびりと過ごせたことは追い風になる。もっとも、渋野はこんな言葉も残している。 「明日は天気がすごく寒い予報なので、なかなか今日の雨が乾くことはないと思うので。結局、寒い分だけ(ボールが)飛ばなくなるのかな、という思いもあります」 順延が決まる前から、ボランティアを含めた大会スタッフが総出でフェアウェイやグリーンの除水にあたった。しかし、気温が10度近くも下がる予報が出ている月曜日は、フェアウェイは湿ったままとなる。ランが出にくい上に、落ちた場所によってはボールに土が付着するケースが少なくない。 ゴルフでは悪天候下でのプレーとなったときに、無打罰でコース上のボールを拾い上げて土などの汚れを取り除き、状況のいい場所にプレースして再開する、プリファード・ライと呼ばれるローカルルールがある。しかし、今回の全米女子オープンでは適用されない見込みだ。 雨上がりの3日目でも渋野を含めた選手たちを悩ませたように、土などが付着したボールを打つと、選手にとっても予測不能の変化がかかることがある。ただ、フェアウェイのどこにボールが落ちた場合に汚れるのかがまったくわからないだけに、あれこれ考えても仕方がない。
3日目よりもさらに重たくなるかもしれないグリーンを含めて、最終日に臨むすべての選手が同じ条件で戦うからこそ、最後は努めてポジティブな思考回路を渋野は稼働させている。 「首位で最終日を迎えるので優勝したい気持ちはありますけど、本当に目の前のことだけに集中して、私らしいゴルフが18ホールできればいいな、と思っています」 自分らしいゴルフとは、今大会においては耐えて、耐えて、我慢を重ねながら、バーディーを奪えるチャンスが訪れたホールで一気呵成に攻めていくこと。仕切り直しのティータイムに決まった14日午前8時25分(同午後11時25分)から、心身をリフレッシュさせた渋野の歴史への挑戦が幕を開ける。