スペイン代表が強い。イタリアを圧倒できた最大の理由とは?「実力不足」と言われた男がキーマンに【ユーロ2024分析コラム】
ユーロ2024グループB第2節、スペイン代表対イタリア代表が現地時間20日に行われ、1-0でスペイン代表が勝利している。ともに優勝経験のある強豪同士の一戦だったが、内容はシュート数20vs4とスペイン代表が圧倒。ほぼ相手に何もさせないワンサイドゲームとなった。なぜこれほどまでに差が生まれたのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】スペイン代表vsイタリア代表 ハイライト
●スペイン代表がイタリア代表にスコア以上の完勝 1-0というスコア以上に、勝利したスペイン代表と敗れたイタリア代表には大きな差があった。 両者のスタッツを比較するとこの「差」はより顕著になる。イタリア代表は試合を通して4本しかシュートを打てず、ゴールが入りそうな気配すらなかった。前半最初のシュートが45分、後半最初のシュートが74分のFKの時点で苦しいのは明らかだ。 対するスペイン代表は開始2分で相手GKジャンルイジ・ドンナルンマを脅かす決定機が生まれるなど、キックオフ直後から絶好調。イタリア代表の5倍にあたる20本ものシュートを放ち、そのうち9本が枠内へと向かった。キャプテンを務めるドンナルンマの度重なるビッグセーブがなければ、ユーロ2012決勝のように4点差ほどの差がついてもおかしくなかった。 結果的にこれだけの差がついた両者だが、イタリア代表も決して調子が悪いわけではない。アルバニア代表との初戦では開始直後にミスから失点を喫したとはいえ、前半のうちに逆転するなどクオリティを見せつけていた。 なぜ優勝経験がある強豪同士の一戦は、スペイン代表が一方的に支配するワンサイドな展開になったのだろうか。 ●イタリア代表相手にハマったスペイン代表の強み 現在のスペイン代表は3-0の大勝を収めたクロアチア代表戦でも見られたように「トランジション」を重視したチームだ。高い位置から圧力のあるハイプレスで相手のビルドアップを制限し、奪ってからの速攻で一気にゴールを仕留めるのが狙いである。 イタリア代表との試合でも開始直後からトランジションを意識した入りとなり、両チームともに中盤でボールを落ち着かせることなくカウンターの応酬となった。 イタリア代表としてはスペイン代表の速いペースに付き合ってしまったのが試合を難しくさせた要因だろう。前半の早い時間帯でかなり消耗しており、最終ラインこそボールを保持できた時間もあったが、中盤より前でなかなかボールが繋がらず、スペイン代表のプレスの餌食となった。 このような展開となれば前線で起点となれるアルバロ・モラタに加えて、ニコ・ウィリアムズ、ラミン・ヤマルという単騎で攻撃を完結できるウインガーがいるスペイン代表の方が俄然優位となる。 中でも脅威となったのが左ウイングで先発出場したニコ・ウィリアムズだ。イタリア代表の右SBジョバンニ・ディ・ロレンツォを1対1で終始圧倒し、彼のいるサイドから多くのチャンスが生まれた。55分のオウンゴールのシーンもニコ・ウィリアムズがナポリ所属のDFをドリブルではがしてからのクロスが起点となっている。大会公式のマン・オブ・ザ・マッチにも輝いた。 そんな彼よりも存在感抜群だったのが左サイドバックのマルク・ククレジャである。彼が今大会のスペイン代表のキーマンと言ってよいだろう。 ●ククレジャがキーマンになる理由 ククレジャは大会前に解説者のギャリー・ネヴィル氏に「スペイン代表でプレーするには実力が足りていない」と酷評されていた。 元イングランド代表DFの言葉とは対照的に、開幕からの2試合でこの左サイドバックは素晴らしいパフォーマンスを披露している。この試合がスペイン代表での6試合目と、決して代表戦での経験が豊富なわけではないが、攻守に欠かせない選手の一人だ。 先述した通り、現在のスペイン代表はトランジションに重きを置いている。となれば、ボール奪取能力に優れた選手がいればいるほど、トランジションが生まれ、彼らの狙いである速攻が可能となる。 この役割を左サイドバックの選手に求めるのであれば彼が最適だ。イタリア代表戦では対峙したフェデリコ・キエーザを完封。チーム最多の5つのタックルを成功させ、地上戦も8/10勝利と1対1で圧倒した。 彼は対人守備だけでなく予測の部分にも優れており、11分には逆サイドからのサイドチェンジに対して頭でカットし、そのまま味方選手へとパスを繋げて攻撃の起点となった。セカンドボールに対しての反応も早く、ロドリとファビアン・ルイスとともに多くのボールを回収して二次攻撃に繋げている。 このように彼は守備で持ち味を発揮する選手だが、攻撃面での貢献度も素晴らしい。 本来イタリア代表はドリブル突破を得意とするニコ・ウィリアムズに対してダブルチームで対応したかったところだが、それをさせなかったのはこの左サイドバックのサポートがあったから。55分の得点シーンや71分のシュートシーンに代表されるように、ククレジャがハーフスペースあたりにフリーランすることで、質的優位を保ったまま仕掛けることができていた。 ククレジャは苦手なプレーこそあるが、やることを整理すればチームの強みとなる。開幕から2試合での貢献度の高さはチームNo.1だろう。彼が活きるような試合展開が続けば、自ずとスペイン代表は優勝候補の一角に上がってくるはずだ。 (文:安洋一郎)
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