ジンベエザメ「海くん」はなぜ死んだのか 「人間の都合」「かわいそう」放流1カ月の悲劇
愛媛県宇和島市の岩松川で今月上旬、ジンベエザメが迷い込んでいるのが見つかり、翌日死んでいるのが確認された。海遊館(大阪市港区)によると、このジンベエザメは同館で約5年間展示され、今年10月上旬に生態調査のため放流された雄の「海」。ジンベエザメは世界最大の魚として知られるが、専門家によると、1~2カ月エサを食べなくても死ぬことはないという。「海」はなぜ死んでしまったのか。 【写真】「おやつ」を食べるジンベエザメ ■目撃情報相次ぐ 宇和島市役所津島支所によると、5日午前10時ごろ、岩松川の河口で「大きな魚がいる。ジンベエザメではないか」との目撃情報が市民から寄せられ、その後も通報が相次いだ。職員が様子を見に行くと、5~6メートルの範囲を泳いでいたという。だが、翌6日に姿が見えなくなり、昼頃に職員がドローンで確認したときには動かない状態になっていた。 海遊館によると、このジンベエザメはもともとは高知県で漁業用の網に入ったといい、令和元年10月から同館で展示されていた。現在の推定年齢は9~10歳で全長約5・9メートル、推定体重約1・5トン。生態調査のために今年10月3日、回遊経路などを記録する装置を取り付け、高知県土佐清水市の同館研究施設の沖合で放流した。 海遊館のスタッフが現地に駆け付け、模様や取り付けられた発信機の痕からこのときに放流した「海」と特定。死んでいることも確認された。 ■回遊経路の調査 世界最大の魚、ジンベエザメ。海遊館では現在も別の個体を展示し、人気を集めているが、その生態にはまだ分からない部分が多い。 「人間の勝手な都合に振り回された」「かわいそう」。SNS(交流サイト)では、そのように放流を批判する声も上がっている。ただ、回遊経路などの生態調査のため、水族館や研究所で飼育していた個体などに記録装置をつけて海遊館が放流した例は過去に計11例あり、その後死亡しているのが分かった例は今回が初めてだという。 調べたい期間を設定した記録装置を背びれに取り付けて放すと、期間終了時に装置が離れて海面に浮かんでくる。この装置から送られる記録を解析することで、回遊経路が分かる。平成27年に行った6カ月間の調査では、ジンベエザメが高知県から東南アジア沖に到達し、フィリピンのミンダナオ島周辺まで回遊したことが明らかになった。