韓国「非常戒厳」直後の国会で何が起きていたのか―「ルポ」内部に入った記者が見て、感じたこと 尹大統領が信じたものは?議事堂を巡る攻防戦の経過
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が2024年12月3日午後10時半(日本時間も同じ)ごろ、突然、「非常戒厳」を宣言した。武装した兵士らが、ソウルの国会に次々と入った。非常戒厳は戒厳令の一つの形態で戦時などの非常事態に大統領が宣言し、市民の権利を制限するものだ。1987年の民主化後は初めてで、かつての軍事政権をほうふつとさせる事態に市民らは国会に集まり、兵士に「韓国の軍人として恥ずかしくないのか」と語りかけた。緊迫したあの日とその後、韓国の国会や周辺では何が起きたのか。(共同通信ソウル支局 富樫顕大) 【写真】国会敷地内に武装兵士が次々と…深夜に緊迫 国会関係者らは消火栓の水を噴射して対抗
▽閉鎖された国会に入るには 「尹大統領、非常戒厳宣言」。会食からの帰りのタクシーに乗っていた時、スマートフォンで韓国メディアの速報が鳴った。運転手に伝えると、「訳が分からない」と思考が停止したような表情になった。 パソコンで速報記事を作る。「国会など一切の政治活動を禁じる」「全ての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」といった戒厳司令部の布告令に、これは現実なのかという感覚になった。 革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表がユーチューブチャンネルで、戒厳令は「違憲」だとして市民に国会へ集結するよう呼びかけた。軍と市民側が衝突するのではないか―。急いで国会へ向かった。 12月4日午前0時過ぎに国会前に着くと、既に集まった市民ら約千人が門の前で「戒厳撤回」「戒厳撤回」と叫んでいた。警察官が国会の出入り口を封鎖する中、市民や国会関係者に交じって高さ2メートルほどの塀をよじ登って敷地内に入った。塀の上から暗闇へと飛び降りると、何かで右手の薬指を切った。血が止まらず、スカーフで指を巻いた。 ▽軍用ヘリが着陸、国会に入る兵士たち
入館を拒否されたとみられる軍側が国会本館の建物に入るため割った窓ガラスの前で、兵士数人が見張るように立っていた。何らかの方法で敷地内に入っていた市民が「韓国の軍人として恥ずかしくないのか」と語りかけた。 私は本館の正面側の玄関から守衛に記者証を見せ入った。窓から外を見ると、軍のヘリコプターが敷地内のサッカー場に着陸していた。40人ほどの兵士がぞろぞろと本館へ向ってくるのが見えた。国会関係者らはサッカー場側の玄関に椅子などでバリケードを設置し、隙間から消火栓の水を噴射して対抗した。 国会内の関係者や報道陣の緊張が高まっていた。「大統領は正気じゃない。何をするか分からない」。ある議員秘書はおびえた表情で話した。 ▽あきれた声、そして安堵 野党議員らは戒厳が宣言されると、決議で事態を収拾しようと国会に急いで集結した。午前1時ごろ、戒厳解除要求決議を可決。国会内では拍手が起こった。保守系与党「国民の力」の議員18人も駆け付けて決議可決に協力した。