肝臓にラーメンスープ状の脂が溜まっている…酒を飲まない人の「脂肪肝」が約2300万人もいる衝撃理由
■よかれと思って飲む野菜ジュースが仇になる 糖質を減らす食生活というと、甘い食事を控えればいいのだろうと思うかもしれませんが、もっと手軽で効果的に減らせる方法があります。それは「飲み物」を変えることです。 最近の研究で、肝臓に脂肪がたまる要因として、口から栄養素が入ってから肝臓に届くまでのスピードが関係していることがわかりました。同じ糖質でもゆっくりと吸収されるものは、小腸でブドウ糖に変えられるのです。ブドウ糖は肝臓だけでなく、体全体のエネルギーとして使われる成分なので、肝臓への負担を和らげます。 ところが飲み物だと、糖質がそのまま肝臓に届いて脂肪に変えられてしまいます。「短時間に」「高い密度で」栄養が体に吸収されるものが、もっとも肝臓に負担をかけます。その代表が甘い飲み物なのです。これらをやめるだけで脂肪肝はみるみる改善します。 甘い飲み物というと例えば炭酸ジュースを控えればいいと思うかもしれません。それも間違いではありませんが、注意が必要なのは「一般に体によいとされる飲み物」です。たとえば野菜ジュースには1パック200ミリリットルで角砂糖6個分の糖質が入っています。乳酸菌飲料は1パック65ミリリットルで角砂糖4個分、スポーツドリンクも500ミリリットルで角砂糖約10個分の糖質が含まれているのです。 それに加えて牛乳や豆乳、甘酒なども栄養価が高い飲み物です。これらの飲み物は病中、病後などにはバランスよく栄養がとれる優れた飲み物ですが、脂肪肝は栄養をとりすぎて陥る状態なので、脂肪肝の人は控えるべきです。 これらの飲み物から「水」「お茶」「ブラックコーヒー」「無糖の炭酸」に変えるだけで、肝臓の状態は変わっていきます。 私は全国で高齢者に向けて講演活動をしていますが、暑い夏に熱中症予防としてスポーツドリンクを飲んでいる高齢者が多いことに驚かされます。それを先ほど挙げた4種類の飲み物に変えるだけで簡単に肝臓は改善できるのです。 ■夕食は軽めにして朝と昼にたんぱく質を 飲み物で糖質をカットすると同時に大事なのは、たんぱく質をとることです。理由は筋肉を維持するためです。人間の体はいざという時のためにグリコーゲンとして糖質を貯蔵する機能があります。それを貯蔵するのが、肝臓と筋肉です。 つまり、筋肉量が減れば、筋肉に貯蔵されなかった糖は脂肪に変えられて蓄積されることになり、脂肪肝を悪化させる原因になります。そのため筋肉量を維持することが重要で、だからたんぱく質が必要なのです。 一日にとるべきたんぱく質の目安は、体重(キログラム)と同じ数字のグラム分。体重60キログラムの人なら一日60グラムをとってください。ここで注意したいのは、たんぱく質は一度にとり込むことができない点です。夕食を多めに食べるスタイルの食生活の人が多いと思いますが、私が勧めたいのは、朝と昼に多めにたんぱく質をとることです。 日中に栄養をしっかりとり、夕食は軽めに済ませるほうが、脂肪がたまりにくい生活になります。なぜなら活動をする朝や昼のほうが、体が体温を上げるために熱を使うので脂肪を落としやすく、夜は体を休めるため食事からとった栄養が脂肪になりやすいのです。 私は30年以上、肝臓外科医として肝炎の重症患者を中心に治療を行ってきました。これまで肝臓手術が必要な患者の9割はC型肝炎でした。残りの1割はB型肝炎。アルコール要因の人はごく少数でした。ところが2023年の調査結果では、肝硬変の原因の第1位がアルコールとなりました。長年トップだったC型肝炎を抜いたのです。そして、近年増えているのは非アルコール性の脂肪肝。私は10年後、遅くとも20年後には、非アルコール性の脂肪肝がトップになると見込んでいます。 今でも日本人の3分の1が脂肪肝を抱えているといわれています。しかし今回説明した通り、脂肪肝を改善する方法は、簡単ですぐできることです。医者にかかったり特別な薬を飲むことなく改善できます。ぜひ今日から食事のとり方、特に「飲み物」を変えて、肝臓の働きを取り戻しましょう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 尾形 哲(おがた・さとし) 肝臓外科医 長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、 2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術』、『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(いずれもKADOKAWA)などがある。 ----------
肝臓外科医 尾形 哲 構成=大島七々三