サッカー界に悪い指導者など存在しない。「4-3-3の話は卒業しよう」から始まったビジャレアルの指導改革
「戦うシステムで解決している場合じゃない」という結論
――本格的な改革を始める前にスペインの歴史や社会学、教育学など、フットボールを哲学的に学びました。どういう意味付けだったのですか? S:歴史だけにとどまらず、教育学、社会学といった分野で名を残してきた多くの偉人たちの足跡やセオリーというものを振り返りながら、指導やフットボールに反映させながら学びを深めました。なぜかというと、何千年という人類の歴史の中でわれわれの物事の考え方や何かを機能させる方法は継承されているよね、と。特に西洋思想のベースとなっているものが、実はピッチ上で指導する際のものの言い方、選手との関わり方にすごく反映されている。そこに僕らは気付かないまま無意識的に引き継いできたと考えたのです。 ――最初は「え? 歴史? 社会学? 教育心理学?」と戸惑いましたが、指導を転換する必要性を理解してから入れたのは良かったです。 S:一見するとフットボールと関係なさそうなので、みんな驚いたかと思います(笑)。パブロフ、ソーンダイク、JBワトソン、ヴィゴツキー、オーズベル(※)といった人たちの理論をはじめ、西洋の思想というものがどこから発展してきたのか、どのように整理されてきたのかを僕らも一緒に学べて有意義でした。社会が生産性を上げようと経済重視で発展するなか、われわれは考える余白というか余裕がまったくないなかで育てられてきた。 (※)パブロフ(イワン・パブロフ/帝政ロシア・ソビエト連邦の生理学者。『パヴロフの犬』の実験で有名)、ソーンダイク(エドワード・L・ソーンダイク/アメリカ合衆国の心理学者・教育学者)、JBワトソン(ジョン・ブローダス・ワトソン/アメリカ合衆国の心理学者。行動主義心理学の創始者)、ヴィゴツキー(レフ・セミョーノヴィチ・ヴィゴツキー/ベラルーシ出身のソビエト連邦の心理学者)、オーズベル(デイヴィッド・オーズベル/アメリカ合衆国の心理学者) ――本当の問題解決を求められています。 S:その通り。ピッチで選手がどのように不安を感じ、どんなアクションをしているのか。どうしたら自信を持ってチャレンジできるのか、そういうところへの問題解決が求められています。にもかかわらず、そこへのアプローチはせず4-3-3の話ばかり繰り返してきた。戦うシステムで解決している場合じゃない。それが僕の結論でした。