サッカー界に悪い指導者など存在しない。「4-3-3の話は卒業しよう」から始まったビジャレアルの指導改革
10年前に行ったアプローチの成果は…
――当時、セルヒオと「改革の成果は10年経たないとわからないね」と話しました。いま10年経って、当時育成年代だった子たちが大人になりました。あの改革をどう評価する? S:育成部からプロになる選手の数や質について僕が評価する立場にはないけれど、成果のひとつは指導者の質の向上でしょうね。先ほど挙げたパコさんやハビさんのようにコーチの指導力は間違いなく伸びた。そこを他クラブに認められているからこそ、多くのビジャレアル出身コーチが移籍して活躍している。 ――何をもって成果とするかっていうのはすごく微妙です。 S:それは当時から話したね。選手は結局、指導者からどんな感情にさせられたか?が一番記憶に残ると考えます。例えば僕らだって、人生の中で出会った人たちのことを思い出すとき、その人とコミュニケーションしてどのような気持ちになったかが記憶に残るよね。それがフットボールシーンだと、どのタイトルを何回獲ったとか、何回勝ったとかっていう事はどんどん忘れ去られていく。実は永続的に残るのはその人との関係性の中で生まれた感情記憶だと思う。 ――優勝何回とかではないのですね。感情にすべて紐づいているのですね。 S:例えばパコ・ロペス監督の例を出すと、彼が当時指導した選手は今でもパコさんに連絡を取っています。それはよくありがちな「試合観戦したいのでチケットください」みたいなものではなく、選手としての相談や悩みを打ち明けます。そこには、選手のパコさんへの信頼の眼差しがある。彼らのパコさんとの日々が豊かだった証です。 ――ああ、わかります。試合に先発で出た、勝ったという幸せではなく、パコさんのすべてに納得している。選手は「嫌なところはあるけど勝たせてくれたから」という理由では相談に行きません。 S:繰り返しますが、勝ち負けの記憶は選手の中にさほど深く長くは残らない。良いサッカーをしたなんてことも。残るのはその人を見る眼差しです。指導者の存在が、選手の人生を構成する大切な因子のひとつになっている。それに尽きる。これこそが10年前にやったアプローチの成果と言えるでしょう。